2004 Fiscal Year Annual Research Report
中世フランスの歴史叙述とナショナル・アイデンティティ形成に関する研究
Project/Area Number |
15720168
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Research Institution | Saitama University |
Principal Investigator |
鈴木 道也 埼玉大学, 教育学部, 助教授 (50292636)
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Keywords | 歴史叙述 / 写本 / 年代記 / アイデンティティ / ナショナリズム / 中世フランス / 記憶 / 王権 |
Research Abstract |
本研究は、キリスト教的世界観が圧倒的な影響力を有する中世ヨーロッパ世界にあって、王権を始めとする世俗権力による国家形成、とりわけその共同性を支えるナショナルなアイデンティティがどのように形成されていったのか、その具体的な様相を王権が展開した史書編纂事業を対象として分析するものである。 今年度は、前年度からのフランスのパリ第一大学における在外研究(2003年10月〜2004年7月)を踏まえ、中世フランス王権が制作した『フランス大年代記』をとりあげ、以下二点に関する分析を行った。 (1)『フランス大年代記』(以下、大年代記と略記)成立の背景、その源流 従来、13世紀後半に成立する大年代記こそ、フランス王国における最初の俗語版王国年代記とされてきたが、すでに13世紀前半段階で、同様の内容と構成を持つ『シャンティイ年代記』と呼ばれる作者不詳の年代記が王権の周辺で制作されていたことが明らかとなった。この年代記の存在は、フランス王権が他の世俗諸侯あるいはヨーロッパ諸王に先駆けて国家史の叙述に積極的であったことを示す。にもかかわらずこの年代記がその後の歴史のなかで「黙殺」ともいえる扱いを受けた背景には、大年代記の編纂主体となったサン=ドニ修道院が、自らが纏める大年代記を「正史」化していくために、記憶の書き換えを行ったという事情あった。 (2)大年代記の普及とナショナル・アイデンティティとの関係性 後に「正史」の地位を得る大年代記も、成立から1世紀ほどの間は、写本制作の動向から判断する限りその普及度は低い。しかしすでにこの時期から、大年代記が特定の有力諸侯のなかで自らの権威づけの手段として用いられていることを、パリ国立図書館所蔵のある写本(写本番号fr.10132)の分析を通じて解明した。ヴァロワ家の廷臣層によって制作されたこの写本は、大年代記の内容を忠実に筆写した後、14世紀前半に生じた王朝交代を正当化する記述を追記している。
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Research Products
(1 results)