2004 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
15720173
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Research Institution | Osaka University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
進藤 修一 大阪外国語大学, 外国語学部, 助教授 (80294172)
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Keywords | 中欧 / 民族 / 戦間期 / ヨーロッパ少数民族会議 / インスブルック大学 |
Research Abstract |
本研究では、研究対象時代である戦間期において、中欧における「民族」概念にかかわったさまざまな人物の個人的経験に焦点を当て、その行動や思想を解明しようとした。それは、この人物たちの「民族」運動が、その生い立ち、周囲を取り巻く環境、人間関係などとは不可分であると仮定したためである。これは、近年の歴史研究で優生である社会構造を中心に据えた社会史研究や、思想のみがあたかも独立した存在であるかのように語られる研究傾向に疑問を呈したところから出発している。 このような観点や手法に基づき、本研究では2つのテーマを設定した。ひとつはヨーロッパの民族関係を再構築しようとしたヨーロッパ少数民族会議(Europaischer Nationalitatenkongreβ)の活動を、中心人物の個人史を検討することによって解明するという課題である。もうひとつは、研究対象時期の「民族」概念構築の鍵となった民族主義歴史学が、オーストリアの歴史家たちの歴史観に大きく依拠したことに注目し、民族防衛の拠点大学と呼ばれたオーストリア・インスブルック大学の歴史学講座の教師陣の史学思想史、そしてその精神史を解明することであった。 ヨーロッパ少数民族会議については、指導的立場にあったヨージップ・フィルファン(Josip Vilfan)、エーヴァルト・アムエンデ(Ewald Aimnende)らのこの会議へのかかわりを、ドイツ連邦史料館で収集した一次史料を中心にあきらかにし、あらたな戦間期「民族」概念形成のあらたな一面を照射した。インスブルック大学の歴史研究については、インスブルック大学史料館およびティロール州立史料館にて一次資料の調査をおこない、ハロルド・シュタイナッカー(Harold Steinacker)、ヘルマン・ヴォプフナー(Hermann Wopfner)の個人史と、それが彼らの思想にどのような影響を与えたかついて検討をおこなった。後者にかんしては現存する一次資料が非常に少なく、これまでの研究を超えられるような資料的発見ができなかったため、研究方法を再考せねばならぬことが課題として残った。 このように、本研究の結果、第一次世界大戦後のヨーロッパ政治の大転換により、それ以前は光を浴びることのなかった地域、とりわけ、辺境のドイツ語圏出身者が、戦後の「民族」問題をリードしたことをあきらかにした。また、戦後の民族問題に見られるさまざまな思想傾向が、これらの人々の個人的体験に大きく影響されていることも同時に解明した(本研究では、この手法を「伝記的社会史」と呼ぶ)。当初研究対象に設定していたドイツ語圏のうち、スイスについては考察をすることができなかった。これが、本研究に残された大きな課題である。
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Research Products
(1 results)