2003 Fiscal Year Annual Research Report
北朝鮮脱出者にとっての「安住」と「家族」に関する文化人類学的研究
Project/Area Number |
15720206
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
李 仁子 東北大学, 大学院・教育学研究科, 講師 (80322981)
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Keywords | 難民 / 家族 / 移住者の安住 / 脱北者 / 北朝鮮 / 在日コリアン / 韓国 / 文化人類学 |
Research Abstract |
年々増加の一途をたどる北朝鮮からの脱出者(脱北者)の、漂泊難民としての移動経験や定着後の生活に文化人類学的手法によってせまり、彼らにとって「安住」とは何か、「家族」とは何かを明らかにすることが、本研究の目的である。 本年度はまず、脱北帰国者へのフィールドワークを行った。従前は韓国に定着した脱北帰国者(北朝鮮に帰国運動時に渡った元在日コリアン)のみだったが、加えて本年度は、日本に定着した脱北帰国者への調査も可能となった。泊り込みでインタビューを何度も行う内に、'漂泊難民として中国やベトナムを転々としていた時期の艱難辛苦の具体的な様子を聞くことができ、またインフォーマントの一人が記した当時の詳細な日記(一年分)も提供してもらえた。日本での適応に様々な困難を抱える彼らにとって、安住はずっと先の課題であり、複雑な屈折をはらむ家族関係は若い世代の教育問題とあいまって、彼らの将来への見通しを曇らせている現状も明らかになってきた。 定着がすぐさま安住や家族の安定につながらないのは韓国でも同様である。韓国の脱北者再教育施設「ハナウォン」での調査から見えてきたのは、漂泊難民生活を送った時期に女性たちが経験した苦難(性を売るしか生活の手立てがない)と、その苦難が生み出す第二・第三の苦難(韓国社会での不適応や負い目)である。来年度以降も、ジェンダーの観点力からより一層の調査・研究を進めていきたい。 北朝鮮国境付近の中国での脱北者へのフィールドワークも予定していたが、,SARSの危険がまったく消えたわけではなかったのと、中国公安当局に日本の脱北者支援組織のメンバーが逮捕される事態が連続して発生したことから、残念ながら見送らざるを得なかった。その代わり、韓国や日本においてNGO団体やキリスト教会などの脱北者支援組織への聞き取り調査や資料収集に力を入れた。それらをもとに、定着支援の日韓比較を通して、漂泊と離散を経験した難民の安住に必要なものは何かが明らかになりつつある。
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