2003 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
15730048
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
木村 仁 岡山大学, 法学部, 助教授 (40298980)
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Keywords | 信託違反 / 利益吐き出し / 不当利得 / 英米信託法 / 損害賠償 |
Research Abstract |
1.本研究は、英米法における信託違反に対する救済理論に依拠し、信託違反に対する損害賠償理論、特に「利益吐き出し」型の損害賠償理論を正当化する根拠を検討することが目的であるが、本年度はイギリスにおける信託違反と不当利得の吐き出しをめぐる判例理論の整理を中心に研究を進めた。 2.イングランド法においては、accountの法理によって、受益者は受託者が信託違反によって得た利益の返還を請求することができる。さらに、信託財産と他の財産の混和した場合や不当処分の場合における第三者に対する責任追求のため、一定の要件のもとにエクイティ上の追及権(tracing)が認められている。このように受益者の信託財産に対する「物権的権利」を保護するために、信託違反による利得返還を支える理論が発達しているが、イギリスでは、「利益吐き出し」と損害賠償理論は区別されているようである。他方、アメリカやカナダは「利益吐き出し」を損害賠償理論に含めて議論する傾向にあり、来年度はアメリカとカナダを中心に研究を進める計画である。 3.前述したように、信託財産が受託者の固有財産と混和した場合に、イングランドではすべてを受託者になる方向で推定することによって、信託財産の特定を容易にし、受益者に利得返還をできる限り可能となるようなツールを備えていることが明らかになった。筆者は、信託銀行で実務に携わる人々と、分別管理義務と信託財産の特定方法に関する議論を行ったが、今後イングランド法における信託財産特定の方法から、我が国の受託者責任論に対する示唆を求め、混和の際の不当利得返還請求を可能にする方途を探っていきたい。 4.最後に、信託財産に生じた損失を補償する理論としてエクイティ上の損失補償(equitable compensation)と呼ばれるものがあり、コモン・ロー上の損害賠償とは異なるルールが適用されるべきことが、特にカナダにおいて主張されていることが看取された。今年度は、両損害賠償理論の内容についてさらなる検討を行っていきたい。
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