Research Abstract |
本年度は,前年度の研究に対するモデルおよび論文の修正,加えて,あらたに創業時の資金調達に焦点をあてた分析を中心に取り組んだ. まず,前年度の研究では,雇用,資産および売上高の増加を中小企業のパフォーマンスとしてとらえ,中小企業向けの代表的な支援政策である「中小企業創造法」を含めて,その決定要因を分析した.この分析について,モデルの変数の選択,および推定方法に対していくつか問題があったため,修正を加えたモデルによりあらたな推定を試みた.結果として,修正後の推定においてもこれまでと同様の分析結果を提示することができ,中小企業創造法が資産増加に影響を与えていることが示された.また,高度経済成長期以前に創業した古い中小企業とそれ以降に創業した若い中小企業に分割し,分割の妥当性の検定を行った上でそれぞれのパフォーマンスの決定要因を分析した.その結果,中小創造法やキャッシュフローの大きさが若い中小企業に影響を与えることが示された.加えて,モデルおよび推定方法の修正にともなって論文を大幅に加筆修正した. 次に,前年度の先行研究のサーベイより,中小企業のパフォーマンスに対しては,資本市場における情報の非対称性の存在もあって,創業時の資本市場からの資金調達の違いによる影響が考えられる.また,資金調達に対しては,企業よりもむしろ起業家の個人属性の影響が考えられるため,資金調達と起業家の個人属性の関係が重要となってくる.このような視点から,既存のデータベースを用いて,創業時における「家族・友人」「事業に賛同してくれた個人・法人」「銀行」の3つのグループからの資金調達額と起業家の個人属性との関係を分析した.これまでの推定結果から,学歴の高い起業家は,銀行から資金調達する傾向が示された.また,年齢の若い起業家は,家族や友人から資金調達する傾向がみられる一方,年齢の高い起業家は,事業に賛同してくれた個人・法人から資金調達する傾向がみられた.さらに,自ら出資した個人資産が大きい起業家ほど,銀行から資金調達しやすいことも示された.これらのことから,情報の非対称性の存在するなかで,銀行からの資金調達には一定の限界があり,このことを踏まえながら支援政策の検討が必要であることが示唆された. 最後に,今後のさらなる研究のため,現在,いくつかのデータベースをもとにわが国中小企業のデータを整理しており,これらのデータベースを用いたあらたな推定を検討している.
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