Research Abstract |
強固な身分制社会であったといわれる近世社会のとらえなおし作業として,教育による身分移動の視点から,これを進めることが本研究の課題である。この課題に迫るため,本年度は,農家や商家に生まれ,江戸や京都の僧侶教育機関(檀林や学寮など)で多年にわたる修学をつづけ,のちに僧侶となった人々に光をあてた。近世社会における教育による身分移動のもっとも顕著な例が,彼らの動向のなかにみられると考えている。 本年度の作業は,農家や商家の出身の修学僧に関する資料調査を主とした。これまでの教育史や仏教史の研究では,このような視点から修学僧はとりあげられておらず,関係する研究資料の報告はほとんどない。したがって,今回の資料調査は,未開拓分野の基本作業となった。本年度,資料調査に専念したゆえんである。 第一に,瀬戸内地域,北九州地域,尾張地域などで資料調査を進め,修学僧の書簡や日記などを収集した。これらの資料は地方資料のなかでもとくに私的な性格が強く,公文書館や大学図書館などに保管されにくい。修学僧の師匠寺院や住職先寺院に加え,その生家を訪ね,独自の調査を重ねた。近年,寺院は人権問題にかかわり,資料の公開に過敏なところがある。調査は容易ではなかった。閲覧できた資料をデジタルカメラなどで撮影し,コンピューターで整理・保存した。 第二に,僧侶教育機関に残る修学僧名簿を調査した。第一点で述べた修学僧の個々の事例を,彼らが学んだ僧侶教育機関側の資料でも確認し,双方からの資料的裏づけをはかるためである。増上寺所蔵の『入寺帳』,大谷大学所蔵の『入寮着帳証印』を調査し,一部修学僧の出身地,出身寺院,入学時期,修学期間などをデータベース化した。 本年度の資料調査をふまえ,次年度以降,これを継続するとともに,成果を公表する機会をもつ。
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