2004 Fiscal Year Annual Research Report
新制度学派的アプローチによるわが国人権教育30年の「逆説」に関する検討
Project/Area Number |
15730373
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Research Institution | Tokyo University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
倉石 一郎 東京外国語大学, 外国語学部, 助教授 (10345316)
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Keywords | 同和教育(解放教育) / 在日朝鮮人教育 / 教育の<外部>の構成 / システム論 / 問題の書き換え / 逆説 / 福祉教員(高知) / 公立学校での在日朝鮮人教育 |
Research Abstract |
本16年度の研究は、事例に密着した記述的アプローチを軸とした。その中でも特に、高知県における同和教育(解放教育)実践に大きな役割を果たした「福祉教員」の存在をクローズアップし、二度にわたる現地での資料収集・聞き取り調査を行い、それらをもとに単なる実証的調査とは異なる、明確な理論的視座からの実践の解釈を行った。その成果は論文「福祉教員制度の成立・展開と教育の<外部>:高知県の事例を手がかりに」(『人権問題研究』5、2005年)にまとめられた。福祉教員とはそもそも、日本敗戦後の混乱期に学制改革が急速になされたことに伴い発生した大量の不就学・長欠問題に対処するべく、高知県が独自に措置した特別な制度である。同和・解放教育を直接の目的としたものではなかったが、その配置は明らかに部落問題を意識したものとなっており、同県における同和教育発展の基礎となったのは当然のことであった。この福祉教員たちの心情と論理を読み解くことで、同和・解放教育(また在日朝鮮人教育など、主要な人権教育)の基底的問題を、教育における<外部>の問題として概念化した。それは、一般に教育実践者が、社会に存在する差別・被差別関係や権力関係のただ中にある子どもの問題に足を踏み入れる際、実践者が行なうことを余儀なくされる現実構成であり、ルーマン・システム論の言うところの「縮減」に相当する。換言すればこれは問題となる現実を、本来教育者が「手を下しようがない」と観念されるものから教育的に「取り扱い可」へと書き換える操作である。この操作は、教育を大きく外部へ開き従来の殻を破る変革的契機であるとともに、他方で「書き換え」のシェマが万能化するとき、教育の手による社会問題や権力関係の矮小化、等閑視につながるという意味で諸刃の剣である。この点で、本研究課題の掲げる「逆説」が、解放教育の実践のなかに内在的にはらまれるさまが鮮明に浮き彫りにできたと考えられる。 上掲研究でえられた視座を基本に、1950-60年代の大阪市における公立学校での在日朝鮮人教育(民族学級を除く)の展開を再検討したのが、論文「公立学校における在日朝鮮人教育のリアリズムと公共性:1950-60年代の「朝問協」とりわけ玉津中学校における展開を中心に」である。本論文によって、従来実践史的に「暗黒時代」「空白」と考えられていた60年代に全く新しい光を当てることができた。むろんその内実は、上で言う「逆説」によって鋭く引き裂かれているが、そのこと自体が決して実践の価値を貶めるものでないことが論証できたと考える。
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Research Products
(4 results)