Research Abstract |
戦後教育改革期における数学教育への再検討において最も根本的な問題は,生活単元学習の学習指導要領(試案)に示された数学教育の目標や指導への示唆が,どのような経緯の下に書かれ,どのような意図をもっていたのかを明らかにすることである。このため,本研究では,国立国会図書館の憲政資料室において,当時の占領軍による日本統治記録であるGHQ-SCAP文書の調査,収集を行った。この資料には,占領軍の教育担当部局C.I.E.と文部省の間で行われた交渉の記録が残されており,本年度は,これより昭和26年の小学校算数科の学習指導要領(試案)の編集過程を分析し,前年度の調査と合わせて研究のまとめを行った。 まず,小学校算数科に関しては,目標の記述をめぐり長期間の検討がなされたが,C.I.E.の提案を受け入れる形でまとめられたこと,単元による指導に関する章が執筆されていたにも関わらず,学校現場の裁量権を認める形で削除されたことが明らかにされた。特に,中間発表以後に変更があり,ここでの議論が学習指導要領(試案)に大きな影響を与えており,中間発表以前に大枠が決定された中学校数学科との違いが見られた。 また,こうしたC.I.E.と文部省の交渉においては,C.I.E.から提案された枠組みを取り入れながらも,ここに日本の数学教育として独自の意味や解釈をつけて,学習指導要領(試案)が編集されていたことを明らかにした。そして,この日本側の取り組みには,戦前の数学教育からの影響,つまり,その継承と発展があると考えられる。
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