2004 Fiscal Year Annual Research Report
彗星アンモニア氷のオルソ/パラ比に基づく太陽系形成初期の温度環境に関する研究
Project/Area Number |
15740127
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Research Institution | Gunma Astronomical Observatory |
Principal Investigator |
河北 秀世 群馬県立ぐんま天文台, 観測普及研究グループ, 主任(観測普及究員) (70356129)
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Keywords | 彗星 / 太陽系 / 原始太陽系星雲 / 惑星科学 / 分子雲 / 原始惑星系円盤 |
Research Abstract |
本研究は、彗星を手がかりにして、太陽系形成初期の温度環境を探ることを目的として行った。彗星は太陽系形成初期に作られた微惑星の残存物であり、その成分である氷や塵に、約46億年前の太陽系形成プロセスの情報が刻まれている。本研究では彗星氷に含まれるアンモニア分子の持つ「オルソ/パラ比」と呼ばれる特性を観測的に求め、この比が約46億年前の原始太陽系星雲における彗星形成領域の温度を反映していることを利用した。アンモニア分子の彗星における直接観測は電波観測によるが、彗星の場合には既存の電波望遠鏡を用いて精度の高い観測を多数行うことは困難である。そこで本研究ではアンモニア分子が太陽紫外線で光解離して生成されるNH_2分子のオルソ/パラ比を観測的に求め、これよりアンモニア分子のオルソ/パラ比を推定するという手法を用いた。本手法は研究代表者が先駆的に開拓した手法であり、NH_2分子の観測が可視光で容易に行えることから、精度良い結果を、多数の彗星について行える可能性があった。実際、研究期間内に7つの彗星についてアンモニア分子のオルソ/パラ比を明らかにすることに成功している。こうして得られたオルソ/パラ比から、分子が熱平衡過程で凝縮したとして平衡温度(核スピン温度)を求めることに成功し、その温度が30K前後で一定であることを明らかにした。原始太陽系円盤内で彗星の形成された領域は、およそ25〜35K程度の範囲であったと推定される。これは現在の土星から海王星軌道付近に相当し、力学的に彗星が同領域から軌道進化したとする説と整合的である。一方、軌道の観点から更に遠方の領域から軌道進化したと考えられてきた彗星についても同様の温度(ただし下限値として)が得られており、カイパーベルトと呼ばれる海王星以遠の領域からも彗星がやってくるとする説に疑問を投げかけている。また、核スピン温度が物理温度を直接反映しているかどうかについても検証を行った。低温の粒子表面において、熱平衡過程で分子生成が行われていたとすると、アンモニア分子以外の分子でも同じ核スピン温度が得られるはずである。実際に、同じ彗星における水分子とアンモニア分子の核スピン温度を比較することができ、異なる分子種で同じ温度が得られることを明らかにした。この事実は、上記の仮定が正しいことを意味し、核スピン温度を物理温度と考えてよいことを支持している。本研究では核スピン温度という観点から彗星氷の起源に迫ることに成功した。今後は分子の重水素/水素比など他の観点からの研究を進め、核スピン温度から得られた結果と比較検討することが重要であると考えられる。
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Research Products
(4 results)