2003 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
15740139
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
湧井 崇志 東京大学, 大学院・理学系研究科, 助手 (70359644)
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Keywords | 偏極 / 固体標的 / 芳香族分子 |
Research Abstract |
今年度はまず、結晶試料の重陽子化による偏極緩和率や偏極移行時間への影響を明らかにするために用いる連続波核磁気共鳴装置を製作し、運用を開始した。この装置ではブリッジ回路と位相敏感検波とを組み合わせたQメータ方式を用いているが、信号強度が弱い熱平衡状態での信号雑音比を改善するために断熱通過方式への転換を容易に行える回路構成となっている。 また、不安定核ビームに偏極陽子標的を組み合わせた初めてのビーム照射実験を行った。この実験では10^5/sの^6Heビームを2.2日間照射した。この照射実験の前後で陽子の偏極緩和率を測定し、比較したところ、照射実験後の緩和率に増加が認められた。この結果は、標的試料にビーム照射による放射損傷が生じていることを示している。さらに、同様な損傷がレーザー光の照射によっても生じることが見出された。そこで、レーザー光の照射によって生じる緩和率の増加を測定したところ、緩和率がレーザー出力と照射時間とに比例して増加することが明らかとなり、その結果から照射実験後の緩和率の増加分のうちレーザー光によるものは16%、放射損傷によるものは84%であることがわかった。今回の実験での放射損傷による偏極緩和率は、標的試料に固有の緩和率とほぼ同等であったため、より長時間のビーム照射実験ではその蓄積効果により放射損傷による緩和が支配的となり、照射実験中の偏極度が時間とともに減少していくことが予想される。標的試料を重陽子化した場合には偏極移行の効率が下がるため、偏極重陽子標的を実現するためには、放射損傷による緩和率の増加に関するより詳細な研究や、アニールなどによる損傷の修復方法を検討する必要があることが判明した。
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