Research Abstract |
本研究は,ゼオライト中のアルカリ金属クラスターの電子構造を,軟X線分光で直接観測することを目的としている.本年度は,試料を作成するための真空ラインの作成,及び,KやNaを吸蔵したゼオライトSODの軟X線発光分光・光電子分光測定を行った. ゼオライト結晶は大気中で多量の水分を含む.試料作成の際は,真空中でゼオライトを加熱脱水し,そのままガラス管に封入しなくてはならない.本年度,この行程を行うための真空ライン及び真空ポンプを整備した.来年度以降,測定に使う試料を本研究所で自前で作成できるようになる. また,本年度,軟X線分光に用いたゼオライトSOD中には,内径約0.7nmの球形の細孔が体心立方構造で配列している.SODにKやNaを吸蔵させ,クラスターを細孔と同じ周期で配列させた試料は,磁性金属を全く含まないにも拘わらず,71K,48Kで半強磁性転移を示す.SOD中のアルカリ金属クラスターは,他のゼオライト中のアルカリ金属クラスターに比べると,大気に若干安定であるため,本年度,測定に取り上げた.試料を大気にさらさないための専用のトランスファーロッドを作成して測定チャンバーに輸送し,軟X線発光分光と光電子分光を試みた.その結果,光電子分光スペクトルにゼオライト骨格のヴァレンスバンドが観測された.骨格のヴァレンスバンドを観測した例はまだ他に報告されていない.また,発光スペクトルには,Kを吸蔵させたSOD試料において,Kクラスターのクラスター準位によると思われるバンドを観測した.今後,試料のハンドリングを更に工夫して試料の劣化を極力抑え,クラスター準位によるバンドである確証を得たいと考えている.また,今回は試料のチャージアップを防ぐために,光電子スペクトルの分解能を下げざるを得なかった.この点も工夫して,分解能を上げた測定を行う予定である.
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