Research Abstract |
妊娠の維持・分娩に子宮内局所免疫が関与することが知られている。しかし,妊娠期ならびに分娩時の局所免疫機能が,分娩後の生殖機能ならびに繁殖障害発症にどのように影響するか明らかではない。近年,繁殖障害の増加にともなう人工授精受胎率の低下も生産性低下の大きな問題となっている。妊娠期および分娩時に変化する生体の維持機構の一つである生体防御機構を解析し,病態発生機序を明らかにすることが,疾病の発症予知,予防法の開発につながると考えられる。本研究は,妊娠期の免疫関連物質の解析を行い,分娩後の繁殖障害発症に関わる妊娠期の生体機能変化を明らかにすることを目的に行った。現在,妊娠に関与する子宮内局所免疫の主たる2型ヘルパーT細胞から産生されるインターロイキン-6(以下IL-6)および,1型および2型ヘルパーT細胞主体の免疫環境の指標となる免疫グロブリン(IgG2およびIgG1)濃度を測定した。経産ならびに未経産牛延べ50頭から,分娩前60日から血液の採取を行い,末梢血中IL-6濃度の測定を行った。分娩後の疾病発症状況から,胎盤停滞(RP)群,子宮内膜炎(EM)群,卵胞嚢腫(FC)群および分娩後臨床上疾患が認められなかった正常対照(聾)群とした。その結果,妊娠期間中のIL-6濃度は,N群と比較してEM群では高値で,RP群は低値で推移する傾向を示した。IgG1濃度は分娩前60日から分娩日にかけて減少し,IgG2濃度は分娩前60日から分娩後14日まで増加した(p<0.05).また,総IgG量に対するIgG1比およびIgG2比では,RP群は,N群と比べ,分娩前60日のIgG1比は低く,IgG2比は高かった(p<0.05).EM群は,分娩前60から14日にかけてIgG1比は減少し,IgG2比は増加する傾向がみられた.以上の結果より,乳牛では,分娩を境に液性免疫から細胞性免疫主体に変化することが推察された.また,分娩を境に妊娠期および分娩における子宮内免疫環境の異常が分娩後の繁殖障害,特に子宮・胎盤に関する疾病の発症と関係があることが示唆された。
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