2003 Fiscal Year Annual Research Report
交通事故におけるPTSD(心的外傷後ストレス障害)
Project/Area Number |
15790323
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Research Institution | Showa University |
Principal Investigator |
田口 智子 昭和大学, 医学部, 助手 (30266085)
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Keywords | PTSD / 心的外傷後ストレス障害 / PTSD裁判 / DSM-IV / ICD-10 |
Research Abstract |
本年度は、判例データベースをもとに交通事故におけるPTSD(心的外傷後ストレス障害)事案を検索し、判例について検討を行った。対象とした判例は、いずれもPTSD発症を争点としているものであり、PTSD肯定事案が14件、否定事案が28件、認定回避事案が1件であった。阪神大震災や地下鉄サリン事件で一躍、社会問題となったPTSDではあるが、民事事件におけるPTSD裁判は平成14年7月17日東京地裁判決以降、否定判決へと傾きつつある。 PTSDの発症を裏付けるには診断基準DSM-IVやICD-10に記載の通り、まず「強烈な心的外傷体験(自分又は他人が死ぬ又は重傷を負うような外傷的出来事)」に遭遇し、さらに3大症状(1)再体験症状、(2)回避症状、(3)覚醒亢進症状を呈することが必須要件とされている。しかし、これらの4要件を厳密には充たしてないにもかかわらず、PTSDと診断されているものが数多く見られた。DSM-IVやICD-10自体の表記が曖昧なため診断する側に混乱を招いているのも一因ではあるが、最大の原因は自分の作成した診断書が司法の場でどのような影響を与え得るか、医師の認識不足に由来すると思われる。一部の弁護士は精神科医の勉強不足と指摘する向きもあるが、精神科領域においての治療目的の診断と司法の場での診断とは元来、目的の異なるものであることも否めない。こうした現状の中で公平な裁判が行われるためにはダブルスタンダードにならざるを得ず、法的診断基準の確立の必要となるであろう。また、PTSD発症が肯定された場合の症状固定時期、後遺障害等級、労働能喪失率、素因斟酌など明確な賠償基準を定める必要がある。今後、弁護士や精神科医との連携により法的診断基準の作成を目指したいと考えている。
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