Research Abstract |
従来,咀嚼機能の客観的評価には,筋電図や節分法などを用いた術者サイドからの評価が数多く行われている.医療行為により患者のQOLを向上することが医師の大きな使命である現状を踏まえると,QOLに関連した患者主体の咀嚼機能評価の必要性があると考えられ,この点から味覚を指標とした評価方法を確立することを着想するに至った.そこで本年度は,昨年度に製作した被験食品を用いて,正常有歯顎者を被験者とし,咀嚼により被験食品から抽出されたスクロースの量と,実際に味を感じたかどうかのアンケート値の間の相関を分析した.その結果,咀嚼回数と味成分の抽出量の間には高い相関が認められたが,味成分の抽出量とアンケート値の間には,数種類の被験食品の中でも,最も高い相関係数が0.364という弱い相関しかみられなかった.このことは,被験食品内の味成分が口腔内に多く溶出したとしても,必ずしもその味を感じるわけではないことを示している.今回のアンケート値は,その味を判別できたときの溶出濃度,すなわち認知閾値を使用したが,この閾値は被験者間差も大きく,さらに被験者内でも習慣や体調などにより差を生じることが認められた.このことから,味覚を指標とした咀嚼機能評価,すなわちアンケート値から簡便に咀嚼機能を評価するという目標を達成することが困難であると考えられた.そこで次に,心理的要因をpredictor,味覚閾値をoutcomeとし,方法を極力単純化する実験計画をたてることとした.心理的要因が味覚に影響を与えるということはこれまでの実験で得た認識であり,文献的にも裏付けされている.背景として,臨床の場で「義歯を装着すると味を感じなくなった、味が変った」という患者の訴えを耳にすることがあり,これは,義歯を装着することによる不快感が味覚に影響を与えることが一因だと考えられる.そこで,義歯装着時と非装着時の味覚閾値を比較することにより,義歯のどのような要素が味覚に影響を与えているのかを明らかにすることを目的とした.現在,義歯装着患者を被験者として,濾紙ディスク法を用いて味覚検査を行い,データを収集しているところである.
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