2015 Fiscal Year Annual Research Report
異方配向した無機酸化物ナノシートによる自励振動ゲルの時空間制御
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15F15044
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
吉田 亮 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (80256495)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
KIM YOUNSOO 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 外国人特別研究員
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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Keywords | 高分子材料 / ゲル / 酸化チタン / ナノシート / 化学振動反応 / 自励振動 |
Outline of Annual Research Achievements |
あるエネルギーを、いかに効率よく、いかに制御して、別エネルギーに変換するかという問いに対し、生体システムのように「自ら時空間を制御するエネルギー変換」の実現は、科学が全分野をあげて今後挑戦すべき、重要な課題である。心筋に代表される生体システムは、「燃料」の化学エネルギーを消費しながら、外部刺激によらず自らリズムを創り出し、決まった方向に力学エネルギーを出力する。生体にとっては当たり前の性質であるにも関わらず、その模倣に成功した人工システムは、現時点で皆無に近い。外部刺激に応答するアクチュエータは、一見「動的」に思えるが、自らリズムを創るわけではなく、外部刺激を止めた時点で、「静的」になってしまう。本研究では「自らのリズムで、自ら決めた方向に、自ら採ったエネルギーで動き続けるシステム」を構築する事に挑戦する。すなわち(i)温度変化に応答して膨潤収縮するポリN -イソプロピルアクリルアミド(PNIPAAm)、(ii)化学振動を示すBelousov-Zhabotinsky反応系(BZ反応系)、(iii)一義配向した無機酸化物ナノシートの三者を複合化したゲルを開発し、その自励振動挙動を調べる。ナノシートの配向により、前例のない「速く、大きく、異方的な」ゲルの自励振動変形を実現することを目指した。本研究により、変形の自律性と異方性を同時に制御することが可能となり、新規なソフトアクチュエータの開発が期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
受入研究室では、BZ反応の触媒であるRu錯体と、代表的な感温性ポリマーであるPNIPAAmとを共重合することにより、BZ反応の周期的酸化還元反応に応答して力学的振動を発現する自励振動高分子ハイドロゲルを開発してきた。このゲルは、Ru触媒の価数に応答して膨潤・収縮する結果、生き物のような動きを自発的に繰り返す。しかしながら、この自励振動ゲルは構造異方性を持たないため、膨潤収縮運動は特定方向に変形や力を集積することができない。そこで本研究では、磁場配向した酸化チタンナノシートをゲルの中に内包させ、ナノシートの異方的な構造による「速く、大きく、異方的な」ゲルの新たな自励振動変形を実現した。 酸化チタンナノシートの水分散液に磁場を印加すると、ナノシートは磁力線に対し一義的に垂直配向する。この分散液にNIPAAm、アミノ基を持つコモノマー、架橋剤および光ラジカル開始剤を溶解し、磁場印加下にてアクリルモノマーを光重合したところ、系がゲル化し、ナノシートの異方的配向は磁場解除後も維持された。得られたハイドロゲルの側鎖のアミノ基を、スクシンイミジル基を有するRu錯体と反応させることで、一義的配向した酸化チタンナノシートとRu錯体とを内包するハイドロゲルを得た。このゲルをBZ反応基質(硝酸、臭素酸ナトリウム、マロン酸)溶液に25 °Cにて浸漬したところ、初期に橙色の還元状態だったゲルは、時間とともに、緑色の酸化状態および橙色の還元状態を交互に変化した。ゲルは還元状態から酸化状態へ転移するに伴い、速やかにナノシート垂直方向にのみ膨潤した。一方、還元状態に戻ると元の形状が回復され、これらの変形は劣化を伴わずに繰り返された。注目すべきは、既往の自励振動ゲルは等方的に膨潤・収縮するのに対し、今回のゲルは異方的かつより大きい変位で変形する点である。
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Strategy for Future Research Activity |
今回は「速く、大きく、異方的な」自励振動変形は達成したが、次なる目標は振動の変位と変形速度をより大きくするための最適な条件を探すことである。検討必要なパラメーターとしては、(i)ゲルの大きさ、(ii)温度、(iii)基質濃度などが考えられる。 通常の自励振動ゲルは、ゲルのサイズが化学反応波のスケールより充分小さい場合、酸化・還元変化はパターン形成を伴う事なく均質に生じるため、ゲルは等方的な膨潤収縮振動を示す。ゲルが化学反応波の波長以上のサイズになると、反応拡散系として化学反応波がゲル内を伝播するようになる。すなわち、大きいサイズのゲルでは波の伝播と同期して局所的に膨潤している部分と(酸化状態)局所的に収縮している部分(還元状態)が同時に存在する。 我々のゲルの異方的変形を増大させるためには、ゲルのサイズを化学反応波のスケールより小さくする必要がある。また、BZ反応の振動周期や振幅は温度や反応基質濃度に依存して変化する。一般に、濃度や温度上昇に伴いBZ反応は短周期化する。したがって、ゲルの自励振動挙動は基質濃度や温度といった因子による制御が可能である。 PNIPAAmは相転移温度を持つ温度応答性ポリマーであるが、Ru錯体を共重合した場合、Ru錯体の酸化・還元状態で高分子鎖の新疎水性が変化し相転移温度が変化する。ゲルの場合、酸化状態では還元状態より膨潤度が高くなると同時にゲルの相転移温度が高くなる。酸化・還元状態の膨潤度の差をより大きくするためには、ゲルの酸化・還元状態での相転移温度を調べて、還元状態の相転移温度よりは高いが酸化状態の相転移温度よりは低い温度でBZ反応を起こす必要がある。ゲルの相転移温度を調べる方法としては、(i)温度を低温から徐々に上昇し、それに伴うゲルの体積変化から相転移温度を調べる平行膨潤度実験と、(ii)DSC(示差走査熱量測定)などが考えられる。
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Research Products
(9 results)