2015 Fiscal Year Annual Research Report
エビ類の生殖促進ホルモンの解明とそれを利用した新規の実用的親エビ催熟技術の開発
Project/Area Number |
15F15094
|
Research Institution | Japan International Research Center for Agricultural Sciences |
Principal Investigator |
Marcy Wilder 国立研究開発法人国際農林水産業研究センター, 水産領域, 主任研究員 (70360394)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
CHEN HSIANG-YIN 国立研究開発法人国際農林水産業研究センター, 水産領域, 外国人特別研究員
|
Project Period (FY) |
2015-07-29 – 2017-03-31
|
Keywords | エビ類 / 種苗生産 / 生殖機構 |
Outline of Annual Research Achievements |
昆虫では、幼若ホルモン(juvenile hormone: JH)と脱皮ホルモンでもある20-ヒドロキシエクジソン(20-hydroxyecdysone)が成虫の卵黄形成を誘導することが知られている。甲殻類においては、若ホルモン類似物質であるmethyl farnesoate (MF)が単離されているが、生殖に関与するか否かが不明である。また、甲殻類の眼柄に存在するペプチドである赤色色素凝集ホルモン(red pigment concentrating hormone: RPCH)は、体色を制御するのみならず、MFとその他の生殖促進作用を有する因子を関係組織から放出させる可能性があると考えられている。平成27年度において、まずMFと脱皮ホルモンがエビ類の生殖過程に及ぼす影響を調べるため、卵黄タンパク質(vitellogenin: Vg)産生部位である卵巣及び肝膵臓を用い、Vg遺伝子の発現量を指標にできる実験系を立ち上げた。その中で、MFや脱皮ホルモンの効能を適切に評価するためには、まずRPCHの役割解明が重要であると判断し、バナメイエビを用い、RPCHのクローニング、構造決定を行った上、注射投与によりその生理学的効果を調べた。その結果、RPCHは21残基のシグナルペプチド、8残基の成熟型ペプチド, 65残基の関連結合領域からなっていることが判明した。次にRPCHの遺伝子発現を定量PCRにより調べたところ、眼柄の他に脳、胸部神経節、卵巣にも発現されていることが明らかになった。合成の成熟型ペプチドをエビに注射投与したところ、卵母細胞の長径が増し、そのVg遺伝子の発現量が上昇したため、RPCHが生殖に関与することが示唆された。今後、RPCHのMFと脱皮ホルモンとの相関関係を調べる予定である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、エビ類の生殖機構解明であり、特にこれまで仮説とされていた成熟促進因子の分離・同定を主目的としている。外国人特別研究員のチェン・シャンイン氏が昨年7月に来日し、1ヶ月ほどで必要な実験手法を獲得し、翌月から独自で研究を開始した。平成27年度内に、バナメイエビで未解明であったRPCHのクローニングに成功し、注射投与を用いることにより、このホルモンが体色の制御のみならず、生殖にも関与していることを突き止めた。次の段階として、MFや脱皮ホルモンがどのように甲殻類の生殖に関与しているかを調べることとしているが、その生理学的作用を正しく評価するための基礎データを得ており、新しいかつ重要な知見も得ている。今年度は、論文投稿に至らなかったが、次年度の早い段階において上記データに基づき、論文を執筆し、General and Comparative Endocrinologyへ投稿する予定である。 また、チェン・シャンイン氏が実験の遂行のみならず、日本学術振興会が実施している「サイエンスダイアログプログラム」に積極的に参加し、平成28年2月に法政大学女子附属高校(横浜市)にて、理化学分野を目指している女子学生に対して、自身の研究やキャリアの経路について講演を行い、教員と生徒に好評であった。 上記を総総合的に考え、自己評価を「概ね順調に進展している」とした。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成28年度においては、RPCHをMFまたは脱皮ホルモンと組み合わせた形でエビに投与し、卵成熟への促進作用を評価する。さらに、MFの作用メカニズムを解明するため、特に二次伝達物質の関与を明らかにする予定である。ザリガニでは、卵成熟に伴い、protein kinase C (PKC)が細胞膜に移動し、活性化されるとの報告がある。PKCはあらゆる細胞機能に関与する酵素であり、phospholipase C (PLC)で始まる二次伝達物質経路を介し、カルシウムまたはdiacylglycerol (DAG)と結合することで活性化される。エビ類では、MFの影響によりPKCが活性化され、生殖が進むことが考えられるため、様々な成熟段階にある卵巣をエビから摘出し、組織培養と免疫化学的手法により、MFがPKCの活性化に関与するか否かを調べるとともに、生殖関連遺伝子への影響も考察する。 また、MFに加えて、タンパク質またはペプチドとして、卵黄形成促進ホルモン(vitellogenesis-stimulating hormone: VSH)が存在すると仮定されているが、未だに分離・同定されていない。そこで、そのVSHが存在すると考えられる脳や神経節を用い、逆相高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により、VSHの単離を試みる。HPLCにより得られた分画について、組織培養系への添加、エビへの投与などにより、その生理学的活性を調べる。VSHはタンパク質かペプチドであると考えられるので、VSHが得られた場合には、プロティンシーケンサーを用いてN末端のアミノ酸配列を同定する。 以上の研究によりエビ類の成熟機構がより明らかになり、親エビの成熟制御・種苗生産技術の向上に貢献することができると考える。
|