2015 Fiscal Year Annual Research Report
柔軟な多孔性結晶を舞台としたドナー/アクセプター配列の動的制御
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15F15339
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
佐藤 弘志 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 講師 (20598586)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
AU KA MAN 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 外国人特別研究員
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Project Period (FY) |
2015-11-09 – 2018-03-31
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Keywords | 結晶 / 細孔 / 電荷移動 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、多孔性錯体結晶を舞台とした有機ドナーおよびアクセプター分子の自在配列およびその動的制御を目的とする。設計・合成する結晶性フレームワークは、ドナー/アクセプターの典型的な配列様式である分離積層型および交互積層型を合理的に設計・構築できるのみならず、構造柔軟性を生かし複数の配列様式の動的相互変換を可能にするものである。 本年度は、結晶性フレームワークの設計を行い、必要な有機配位子の合成および多孔性結晶の合成を検討した。フレームワーク全体の構造としては、ゲスト分子の出し入れに伴って構成フレームワークの相対位置が柔軟に可変することが知られている相互嵌入型フレームワークを設計した。続いてフレームワーク形成に必要となる有機配位子部位の合成に移った。まず、アクセプター部位としてperylene-3,4,9,10-tetracarboxylic acid diimide (PDI)を有する配位子の合成を行い、様々な金属イオン種および共存配位子と組み合わせることで多孔性結晶の作成を試みた。残念ながら、合成したいくつかのPDI誘導体の溶解度の問題から、目的とする多孔性結晶の合成には至らなかった。つづいて、同じくアクセプター部位としてnaphthalene diimide (NDI)部位を有する配位子の合成、多孔性錯体の合成を進めた。溶解性の問題もなくなり、結晶性試料を得ることに成功した。得られた結晶試料を溶解させNMRスペクトル測定を行ったところ、期待する構造から予想される配位子含有量が確認された。さらに合成条件を検討していたところ、赤みを帯びた結晶と薄黄色の2種類の結晶を作り分けることが出来ることが明らかとなった。一方の結晶で確認された赤色は、NDI系の化合物が電荷移動錯体を形成する際によく見られる色変化であり、結晶中で何らかのドナーアクセプターペアを形成していることが期待された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、多孔性錯体結晶を舞台とした有機ドナーおよびアクセプター分子の自在配列およびその動的制御を目的とし、ゲストの出入りなどの刺激に応じて構造変化を示す多孔性結晶を用いたアプローチを採用している。設計・合成する結晶性フレームワークは、ドナー/アクセプターの典型的な配列様式である分離積層型および交互積層型を合理的に設計・構築できるのみならず、構造柔軟性を生かし複数の配列様式の動的相互変換を可能にするものである。 初年度は、構造変化を示す多孔性結晶の設計、必要となる有機配位子の設計・合成、および多孔性結晶の合成を行うことを計画していた。始めに合成したペリレンジイミドをコアとする配位子は、多孔性結晶作成に用いる溶媒への溶解度が低いことから、結晶性試料を得ることが困難であったが、続いて合成したナフタレンジイミド系配位子は溶解性の問題はなくなり、多孔性結晶作成が可能となった。 例えば、ナフタレンジイミド系配位子とカドミウムイオン、ジカルボン酸系配位子から結晶試料を得ることに成功した。興味深いことに、合成条件によって色の異なる(赤色または薄黄色)2種類の結晶が得られることがわかり、両者を作り分けることにも成功した。特に、赤色結晶が得られたことは、配位子や金属イオン単独の溶液や結晶は無色または薄黄色であることとは対照的であった。このような色変化は、ドナーアクセプター間で電荷移動錯体を形成したときに特徴的なものであり、得られた結晶中で期待するような電荷移動錯体が形成されている可能性が高いことがわかった。これらの結果は、多孔性結晶中のドナーアクセプター配列制御につながる重要な知見で有り、順調に進展していると判断するに足る結果であると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、電荷移動錯体を形成していると思われる赤色結晶について、構造解析、熱重量分析、電子スピン共鳴(ESR)スペクトル測定、時間分解マイクロ波分光法(TRMC)法を用いた電荷移動度評価などを進めていく。細孔構造が存在する場合には、細孔内部でのゲスト分子の有無に伴うフレームワーク構造の構造変化およびドナーアクセプター間の距離・配向に関する情報を単結晶または粉末X線回折測定を通じて収集する。構造変化の有無、変化の様子を明らかにすると共に、それに伴う電荷移動度の変化を評価する。それらの実験を通じて、本研究の目的である「柔軟な多孔性結晶を舞台としたドナー/アクセプター配列の動的制御」というコンセプトの実現・実証を試みる。
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