2016 Fiscal Year Annual Research Report
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15F15363
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
鳥海 明 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 教授 (50323530)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
CHEN JIKUN 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 外国人特別研究員
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Project Period (FY) |
2015-11-09 – 2018-03-31
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Keywords | 金属絶縁体転移 / 水素 / 遷移金属酸化物 / VO2 / SmNiO3 |
Outline of Annual Research Achievements |
遷移金属酸化物の多くは金属絶縁体転移を示し、それに伴って特性が劇的に変化する。特に近年、成膜後の後工程で水素をドープすることで、金属相と絶縁相の安定性を大きく変調できることが報告され、新しいエンジニアリングの手法として注目を集めている。本研究では、バナジウム酸化物のVO2と、ニッケル酸化物のSmNiO3を例にとり、薄膜の表面に分散したプラチナ触媒を介して水素ドープを行い、金属絶縁体転移がどのように影響されるか調べた。 (VO2) 実験では、パルスレーザー堆積法によってTiO2(001)基板上にエピタキシャルに単結晶のVO2薄膜を作成した。作製したVO2薄膜は、温度上昇に伴って、室温近傍で抵抗値が3桁ほど減少し、典型的な金属絶縁体転移を示した。その後、円状のプラチナ電極を多数表面に形成し、水素1%/Heガス中で300度・1-3時間アニールした。その結果、Pt電極の周りのVO2薄膜が明確に変色し、赤外吸収分光・光電子分光・X線回折・抵抗測定から、水素がドープを示唆する結果が得られた。 (SmNiO3) SmNiO3はSi基板上に多結晶薄膜を作成したこちらも同様の水素アニールによって、電気特性に変化が現れ、水素ドープを示唆する結果が得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の予定通り、VO2、SmNIO3それぞれで、水素ドープを示唆する結果が得られている。またVO2に関しては、水素ドープによって、室温で安定だった絶縁相が金属相へと転移することも判明した。実際に水素ドープによって、抵抗値が1桁以上減少し、赤外透過率が3割低下し、V元素の価数が4+から3+側へわずかに還元される様子が、実験的に確認されている。 またSmNIO3に関しても、水素ドープによって、抵抗値が劇的に増加する様子を確認している。興味深いのは、水素ドープによってVO2の抵抗値は減少するが、SmNiO3の抵抗値は増加するという点である。これは同じモット絶縁体への水素ドープでも、材料や条件によって金属化する場合とより絶縁化する場合の2通りの場合が存在することを意味している。以上のように、各材料で水素ドープの兆候が確認されており、また材料に依存した興味深い現象も発見されていることから、進捗は順調であると判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
先述の通り、VO2とSmNiO3とで、水素ドープによる抵抗値の増減が真逆であるという大変興味深い結果が得られている。過去の文献によれば、水素のドープ量に依存して、初め金属化した酸化物が、再度絶縁化することが報告されている[H. Yoon、 Nature Mater. 2016]。こうした水素ドープ量の影響も考慮しつつ、この2つの材料での真逆の結果の原因を探っていくことが、目下の研究課題である。またこのような水素ドープによる金属絶縁体転移の変調効果を利用して、新しい機能デバイスへの展開も考えていきたい。特に近年、人間の脳を模倣したニューロモルフィック回路の研究が研究者の注目を集めており、そのような新しい回路の領域において、本研究で取り扱っているような金属絶縁体転移とその変調方法等は大いに役立つものと考えている。
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