2016 Fiscal Year Annual Research Report
メダカをモデルとしたDNA損傷応答に及ぼす環境ストレスの影響
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15F15382
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
三谷 啓志 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 教授 (70181922)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
SAYED ALY ALAA EL-DIN 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 外国人特別研究員
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Project Period (FY) |
2015-11-09 – 2018-03-31
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Keywords | 紫外線 / 電離放射線 / メダカ / ナマズ / 赤血球 / コメットアッセイ / ノニルフェノール |
Outline of Annual Research Achievements |
水質汚染は、特に新興国において社会的に重大な問題である。水質汚染が水棲生物にもたらす原因として、重金属や有機化合物に加え、間接的な酸化ストレスがあげられる。個体の全身への影響を観察する上で、血球は全身をめぐることから非常に強力なツールとなりうる。本研究では、放射線や化学物質による環境刺激で生じる全身応答の分子メカニズムを組織学的手法および分子生物学的手法を用いて明らかにする。放射線や化学物質により損傷した細胞において、ストレス応答が誘導される。メダカは、生物学に加えて、環境のモニタリングにも広く使用される水棲動物であることから、本研究では平成27年度から29年度までの3年間で、環境刺激後のメダカから血球、肝臓および腎臓におけるDNAダメージと形態変化を評価する。各種抗体等を用いた細胞増殖・細胞死を評価する。同時に、p53突然変異体と野生型を比較することを目指した。 平成28年度は、Giemza染色および平成27年度に確立したコメットアッセイの手法を用いて、UVAおよびガンマ線照射後の赤血球における形態変化とDNA損傷についてそれぞれ評価を行い、有核赤血球において照射直後からDNA損傷が認められること、その形態変化は4から8時間後に最も顕著であるが24時間後には減少し、14日後には回復していることを示した。また、これらの表現型はp53突然変異により抵抗性を示すようになることも明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度は、まず、3条件で3日間UVA照射後あるいはガンマ線照射による赤血球の細胞および核形態の変化を観察した。野生型およびp53突然変異体共に、この赤血球の形態変化および核形態の異常が観察され、さらにアクリジンオレンジによって検出される細胞死は照射線量に従って増加した。また、ガンマ線照射による細胞死と血球の形態変化は照射後4から8時間で顕著に認められたのち、24時間後には減少し14日までにはその変化は完全に消失した。次に、ガンマ線照射後にコメットアッセイおよびリン酸化ヒストン染色によるDNA損傷の評価を行ったところ、照射後4時間で赤血球におけるDNAの損傷が最も大きくなっていることが示された。また、同様にUVA照射によるDNA損傷への影響を検証したところ、照射直後に観察されたDNA損傷は、24時間後に回復していることが明らかとなった。この結果は、メダカ赤血球においてDNA損傷は修復されることを示唆している。さらに、UVA照射後の稚魚から全身の連続切片を作製し、HE染色により評価したところ、脊椎に異常が認められる個体が多く観察されたが、野生型に比較してp53突然変異体の方がUVAに対して抵抗性があることが明らかとなった。これまでの成果は論文5報で国際誌に公表されており、国際学会において成果発表を行っている。さらに、現在成果をまとめて論文投稿の準備も進めており、当初の予定におおよそ沿った形で順調に進行していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度は、平成28年度に確立・実施した系を用いて、10月までに以下の検証を行う。環境変異源である4-NP(4-ノニルフェノール)とUVA暴露したメダカ成魚の赤血球におけるDNAダメージをコメットアッセイとγH2AX免疫染色解析により引き続き解析する。血液細胞、肝臓および脾臓の組織細胞におけるこれら細胞応答解析をさらに実験回数を増やす。また、4-NP処理後の組織内濃度を、質量分析による定量測定を行う。得られた結果から血球を用いた評価法の有効性を考察するとともに水産資源魚であるナマズでのデータから感受性の比較をする。さらに、環境変異原により増加することが知られている組織内に存在する黒色マクロファージの定量的な評価を行う。可能であれば、酸欠状態あるいはヒ素の投与による赤血球への影響についても検証する。これら得られた成果を水環境系の国内学会にて報告し、論文投稿の準備も進め、学会誌への投稿を行う。
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Research Products
(8 results)