2018 Fiscal Year Annual Research Report
批判的地域主義に向けた地域研究のダイアレクテイック
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15H01851
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Research Institution | Tokyo University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
小川 英文 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 教授 (20214025)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
岩崎 稔 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 教授 (10201948)
佐々木 孝弘 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 教授 (10225873)
島田 志津夫 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 講師 (20624117)
小松 久男 東京外国語大学, 世界言語社会教育センター, 教授 (30138622)
吉田 ゆり子 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 教授 (50196888)
山内 由理子 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 准教授 (50626348)
菊池 陽子 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 准教授 (60334447)
小田原 琳 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 准教授 (70466910)
米谷 匡史 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 教授 (80251312)
大川 正彦 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 教授 (80323731)
島田 周平 名古屋外国語大学, 世界共生学部, 教授 (90170943)
李 孝徳 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 教授 (90292721)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 地域研究 / 人流 / 植民地主義 / 帝国 |
Outline of Annual Research Achievements |
当該年度では研究計画にのっとり、東アジア地域に注力して2つの国際ワークショップを開催した。一つ目は研究計画で示した「歴史と責任の認識をめぐる抗争」という研究論点のもと、「冷戦期東アジアと<廃墟学>の射程」という国際ワークショップを開催し、戦後の東アジアの地政学がどのように諸地域の歴史認識やその後の戦争責任・植民地支配責任に及んでいるのかを、逆井聡人『<焼跡>の戦後空間論』(青弓社、2018年)という研究書を手掛かりに、沖縄、韓国、日本の研究者が歴史学、文学、社会学など学際的な観点からの戦後史研究から、国際政治がどのように東アジア地域で交差しているのかを議論して検証しつつ、これまでの東アジア地域研究のパースペクティヴを間太平洋(トランスパシフィック)という研究フレームワークから批判的に再考する議論が生まれてきた。 また、本科研の研究論点のひとつである「国際政治のローカリゼーション」の観点から、日本における朝鮮半島研究を再考するための国際ワークショップ「コリア学の新地平」を開催した。このこの国際ワークショップには、岡まさはる記念長崎平和資料館、同志社コリア研究センターが参画し、これまで往々にして独立して研究されてきた植民地期の朝鮮人と日本における諸地域でのコミュニティ論的な在日朝鮮人研究を東アジア研究の観点から歴史的かつ地域研究的に総合することを試みた。また、これまでの日本史があくまでも日本という国民国家の歴史として記述されてきたことの問題を、複数の国家や民族が交流して形成されてきた地域史の観点から批判的に検討することの重要性を実証的に確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該年度は、「国際政治のローカリゼーション」と「歴史と責任の認識をめぐる抗争」という研究論点がきわめてアクチュアルに交差する東アジア地域に注力して、帝国の影響力と地域の固有性という観点から、日本の地域研究を再検討するということを行った。列強の植民地氏支配から現在にまで冷戦が継続する東アジアを焦点化し、検討する過程で、研究者たちの議論から「島嶼研究の新地平」と「間帝国研究」という、本科研の批判主義的地域研究を展開するための新しい地域研究のフレームワークを構築する方向が出てきた。また、歴史や政治に関する認識それ自体が地政学的な影響を被り、地域研究それ自体にバイアスを与えてきたことが本科研では検証され、確認されてきたが、こうした拘束から逃れて諸地域の研究者が協働して新たな研究を行うためには、既存のものとは異なる新しい研究のフレームワークが求められていることが繰り返し主張された。こうしたなか、昨年度の本科研の実施過程では「間-太平洋」研究というパースペクティヴの重要性と必要性がとりわけ若い世代の研究者から主張されることになった。本研究のテーマ「批判的地域主義に向けた地域研究のダイアレクテイック」において、「島嶼研究の新地平」、「間帝国研究」、「間太平洋研究」という新機軸の研究アプローチによって、既存の地域研究を再分節することの可能性と重要性を確認し、そのための端緒についたことが研究メンバーで認識された。
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Strategy for Future Research Activity |
「現在までの進捗状況」において述べた「島嶼研究の新地平」、「間帝国研究」、「間太平洋研究」という新しい研究アプローチを展開するために、令和1年度は「歴史と責任の認識をめぐる抗争」と「国際政治のローカリゼーション」という本研究の研究論点が交差する東南アジア地域に焦点をあて、ワークショップを開催する予定である。そこではこれまで地域研究としては独立して行われた東南アジア研究と日本研究を「戦後」の始まりを関係史的に考察することを試みる予定である。 また後半では、本科研で見出されてきた「間帝国研究」「環太平洋研究」という新しい地域研究のフレームワークにもとづいて、本科研の研究計画で示した「歴史と責任の認識をめぐる抗争」と「国家の下位集団による社会的承認の創発化」の研究論点から第二次世界大戦期におけるマイノリティの包摂と総力戦下での人種主義について国際シンポジウムと環太平洋における人流に着目した国際ワークショップを開催する予定である。 また、本科研で注力しているもう一つの研究のフレームワークである「島嶼研究の新地平」に関しても、いくつかのワークショップを行い、その学的な射程について議論する計画を立てている。具体的には、沖縄と奄美に焦点をあて、沖縄では戦後の米軍占領における統治を世界的な地政学の文脈で再考することを行う。また、地域研究それ自体があるある種の問題を持ってきたことを、奄美に対する学知を批判的に検証することで議論する。 以上の計画を遂行することで、昨年度に続きこれまでの地域研究の限界点や問題点を洗い出しつつ、最終年度でのまとめに向けた、新しい地域研究の在り方についてより具体的な方向を出すための議論に取り組む予定である。
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Research Products
(23 results)