2015 Fiscal Year Annual Research Report
量子井戸構造に基づく2次元金属薄膜への磁気機能の誘導とその応用展開
Project/Area Number |
15H01998
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
佐藤 徹哉 慶應義塾大学, 理工学部, 教授 (20162448)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
谷山 智康 東京工業大学, 応用セラミックス研究所, 准教授 (10302960)
島田 賢也 広島大学, 放射光科学研究センター, 教授 (10284225)
沢田 正博 広島大学, 放射光科学研究センター, 准教授 (00335697)
影島 博之 島根大学, 総合理工学研究科(研究院), 教授 (70374072)
神原 陽一 慶應義塾大学, 理工学部, 准教授 (50524055)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 量子井戸 / Pd超薄膜 / 強磁性発現 / 磁性制御 / 磁気異方性制御 |
Outline of Annual Research Achievements |
(100)Pd薄膜の格子定数を評価するために微小角入射X線回折(GIXD)測定とX線CTR散乱測定を行った。面内方向の格子定数はバルクより0.2%程度伸びており、これは基板とのミスマッチにより説明される。一方、CTR散乱スペクトルは強磁性が発現する膜厚においてのみ規則性を持ち、面直方向格子定数は2%増大する。このような結晶性の違いはX線反射率 (XRR)測定からも確認された。これより、Pdは特定の膜厚で良い結晶性を保ち、面直方向へ自発的に歪むことで大きな磁化を持つ強磁性を安定化させるものと考えられる。 Pd/STO試料の磁化はSTOの構造相転移温度で飛びを生じるが、冷却/昇温のサイクルを繰り返すことでこの飛びが消失し、同時に強磁性的挙動も消失した。これは基板界面のラフネスが量子井戸に起因する(100)Pdの強磁性を不安定化することを示唆する。 (100)Pd表面に自己組織化分子膜(SAM)を修飾した場合、磁化の膜厚依存性が0.5原子層厚分シフトすることが観測された。この変化はSAMにより電荷の引き抜きに起因して電子数密度が変化することで説明できる。 NbドープSTO基板にPdを堆積することで界面にショットキー接合が形成され、電圧印加により障壁を変調させることでPdの磁性制御を試みた。ショットキー接合の形成は確認されたが、電圧印加時に生じるジュール熱の影響が完全には消去できない問題が生じた。また、Nbのドープにより基板の電導性が上昇したことがPdの強磁性発現に不利な影響を与えることが分かった。 (100)PdにFeを1、2原子層堆積させた2層膜の界面に生じるPdFe層の磁気異方性を評価した結果、Pdの磁化が極大を示す膜厚において異方性エネルギーが特異的に変化する傾向を見出した。これはPd膜厚により異方性を制御することができることを示唆する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
面直方向の格子定数は磁化がピークを示す膜厚において2%の大きな伸びを示すことが分かり、それ以外の膜厚では膜の結晶性が崩れることが分かった。これは、Pd薄膜では特定の膜厚で良い結晶性が保たれ、面直方向へ自発的に歪むことで大きな磁化を持つ強磁性が安定化することを示唆するものであり、これによりこれまで不明であった実験で観測される磁化が計算より大きくなる理由が説明できる(論文投稿準備中)。Pd/STO試料の冷却/昇温サイクルでの磁化測定より、基板界面のラフネスが量子井戸に起因する(100)Pdの強磁性を不安定化することを示唆する結果が得られた。これは界面状態と磁性を結びつける新規で興味深い知見である(論文投稿中)。これらは予定以上進展があった研究テーマである。 自己組織化膜(SAM)を表面修飾した(100)Pdにおいて電子引き抜きに起因すると考えられる系統的な磁化の変化が観測された。また、Fe/(100)Pdの界面に生じるPdFe層の磁気異方性エネルギーがPdの磁化が極大を示す膜厚において特異的に変化する傾向を見出した。さらにより良質の試料作製を行うためのMBE装置の立ち上げ、評価のためのXMCD実験の準備も行った。これらのテーマに関しては予定通りに研究が進展している。 電場・光など外場によるPdの磁性制御に関しては、実験系の構築などは予定通りに進展しているが、実験上の問題点もいくつか明らかになってきており、明確な成果を得るに至っていない。また、電子構造計算も現在鋭意進めているが、まだ実験結果と対比できるレベルには到達していない。これらのテーマは予定よりやや遅れている。 以上より、予定以上または順調に進展している研究テーマが複数ある一方、外場による磁性制御に関する研究では、今後早急に解決するべき問題点がいくつか明らかになったことから、全体として研究はおおむね順調に進展していると評価される。
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Strategy for Future Research Activity |
(100)Pd薄膜の角度分解光電子分光、X線磁気円二色性およびX線吸収測定を行う。放射光照射時のチャージを防ぐために基板をチタン酸ストロンチウム(STO)からCuに変える。この測定により、量子井戸準位と表面準位の特定、スピンと軌道モーメントの分離を行う。さらに、(100)Pd/Cuの電子状態と磁性を第一原理計算により評価する。 これまでアルカンチオール自己組織化膜(SAM)を表面修飾した(100)Pdにおいて電子引き抜きに起因すると考えられる磁化の変化が観測されたことから、本年度は分子鎖長の異なるSAM を用いて電子引き抜き量を変化させた際の磁性変化を調べる。さらに、チタン酸バリウム(BTO)上に(100)Pd膜を作成し、電場印加とひずみ印加による磁性の変化を調べる。 これまでNbドープSTOとPdの間のショットキー接合を用いて電場により界面における位相シフトを変化させることで磁性変化を誘導することを目指してきたが、基板の電導性が磁性発現を妨げることが見出されたため、より電気抵抗の大きな基板を用いて同様の測定を継続する。さらに電子構造の第一原理計算を用いて、ショットキー接合形成時のPdの電子状態と磁性を検討する。 MBE装置を用いてFe/(100)Pd2層膜を作成し、界面に生じる磁気異方性のPd膜厚依存性を調べる。さらに、Pdウェッジ膜/Fe2層膜に対してX線磁気円二色性測定を行い、磁気異方性のPd膜厚依存性の評価を行うとともにその機構を電子構造の観点から検討する。また、Pd薄膜とFeの接合における電子状態の変化を第一原理計算により評価する。さらに、NbドープSTO基板にPd/Fe2層膜を堆積した試料を作成し、Pdと基板間に生じるショットキー障壁を電場で制御して位相シフト変化を誘導し、界面磁気異方性の制御を行う。
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Research Products
(13 results)