2015 Fiscal Year Annual Research Report
格子歪とアニオンランダム配置の相乗効果による界面高イオン導電性の発現
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15H02024
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
長谷川 哲也 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 教授 (10189532)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 界面イオン伝導 / エピタキシャル歪 / 酸素欠損 |
Outline of Annual Research Achievements |
固体酸化物系燃料電池に用いられる電解質 (ZrO2)1-x(Y2O3)x (YSZ)は高い動作温度を必要とし、低温でも十分なイオン伝導性を有する材料の開発が望まれている。近年、YSZ/SrTiO3多層薄膜界面における巨大イオン伝導性が報告され、ab initio MD計算を含め、様々な理論的研究がなされている。しかし従来の計算では、母物質として立方晶ZrO2相を仮定し、かつドーパント、酸素欠損量、エピタキシャル歪みの影響を系統的に検討していない。そこで本研究では、ZrO2系モデルの是非、特にエピタキシャル歪の効果をZrO2系とYSZ系の双方について第一原理計算により検証した。 まず、歪み下でのZrO2の最安定構造を、密度汎関数摂動理論に基づくフォノン計算により決定した。その結果、エピタキシャル歪みによってZrO2が新たな酸素副格子を構成することがわかった。次に、この安定構造に基づきab initio MD 計算を行い、酸素イオンの軌跡を観察した。モデルとして、3×3×2倍セルに酸素欠損を1つ導入した系 (Zr72O143□)、YSZに対応する系 (Zr60Y12O138□6) 及び、酸素欠損量を上記YSZと同一にした系 (Zr72O138□6) を用意した。ab面内にはSrTiO3基板からのエピタキシャル歪みに対応する格子変形を加えた。計算の結果、Zr60Y12O138□6及びZr72O138□6では、Zr72O143□に比べ大きな酸素イオン拡散が得られた。酸素-カチオン距離の動径分布関数を調べたところ。エピタキシャル歪みがYSZにもたらす影響はZrO2として単純にモデル化できるものではなく、酸素配置の構造変化、ドーパントや酸素欠損の濃度などの複合的な要因が関わっていることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度には、対象とする物質をジルコニアに絞り、基本となる母体の構造の決定、ならびに現実に即した時間スケールでイオン導電性を見積もるための手法の確立に主眼をおいた。その結果、母体として従来仮定されてきた立方晶ZrO2では不十分であり、ドーパントであるイットリウムの効果も考慮する必要があることが判明した。また、最安定構造の決定にはフォノン計算が不可欠であり、その計算に時間を要したが、最終的には不安定な虚フォノンをすべて取り除くことに成功した。 続いて、イオン導電性が、i) 格子歪、ii)酸素欠損量、iii) カチオン置換(YSZに対応)によりどのような影響を受けるかについて系統的に調べた。ここで重要なのは、単なるイオン導電率の大小だけではなく、界面でのイオン導電メカニズムの理解と、それを支配する要因を結晶構造、化学結合的の観点から抽出することであった。本研究の結果、酸素が副格子を形成し、その構造がイオン導電性に大きな影響を及ぼすという新しい知見を得た。これは大きな成果であると言える。 なお、計算には、基本的に現有のワークステーションを用いたが、カチオンやアニオン、格子欠陥を微量添加した系では、大きな単位格子を仮定する必要があり、計算コストがかかるため、適宜大型計算機を併用した。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、ZrO2系では、アニオンの効果に注目する。アニオンを導入するとキャリアも同時に導入されるが、酸素欠損量を調整するなどしてアニオンの効果を切り分ける。 続いて、新たにLaOFに注目したイオン伝導材料設計を試みる。LaOFはRhombohedral構造を最安定相に持ち、778K付近でCubic構造へ相転移する。一方、Oの一部をFに置換した場合 (LaO1-xF1+2x)はTetragonal構造を取り、さらにxが増加すると (x=0.50付近) アニオン副格子の再構成が生じ、室温でもCubic構造をとる。さらに興味深いことに、F/O比が1に近い場合 (x<0.02) にはF-イオン伝導性、x=0.30-0.50の場合にはO2-イオン伝導性が支配的となる。本系の第1原理計算から、まずF欠陥とO欠陥について生成エネルギーを計算し、欠陥のできやすさを評価する。次に、分子動力学シミュレーションを行い、この欠陥がイオン伝導性との関係を明らかにする。さらに、アニオンの濃度比や配置によるイオン伝導性の違いについても検討し、考察の土台となるデータを収集する。 一方で、SrTiO3上へのZrO2系エピタキシャル薄膜合成に向け、初年度から合成条件の最適化をスタートさせる。まず、SrTiO3上のZrO2をモデル物質として選び、窒素あるいはフッ素を添加したエピタキシャル膜(ZrO2-xAy)をPLD法により合成する。アニオンの導入には、i) 気相からの導入、およびii) トポタクティック法を試みる。
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Research Products
(4 results)