2015 Fiscal Year Annual Research Report
南大洋における乱流ホットスポットの定量化とその深層海洋大循環モデルへの組み込み
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15H02131
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
日比谷 紀之 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 教授 (80192714)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
北出 裕二郎 東京海洋大学, 学術研究院, 教授 (50281001)
羽角 博康 東京大学, 大気海洋研究所, 教授 (40311641)
田中 祐希 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 助教 (80632380)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 南大洋 / 乱流パラメタリゼーション / 南極周極流 / 風下波 / 投棄式乱流計 |
Outline of Annual Research Achievements |
南大洋の表層では上空の偏西風の変動に伴って励起される近慣性波が、深層では海底まで達する南極周極流と急峻な海底地形との衝突に伴って励起される風下波が、ともに砕波することで強い乱流混合が生じていると推察される。この南大洋における乱流散逸率の定量化は、深層海洋大循環の解明に不可欠である。 今年度は、2016年1-2月の東京海洋大学・練習船「海鷹丸」によるオーストラリア南方沖での深海乱流観測から得られた乱流散逸率とファインスケール物理量の詳細な解析を行った。その結果によれば、乱流散逸率は全体的に小さく、特に、Southern Antarctic Circumpolar Current Front (SACCF)以南の中・深層では深海乱流計の測定限界値程度に小さくなった。これに対応して、乱流拡散係数も Polar Front以北の深層では 1.0 Munk程度と大きくなる傾向があるものの、多くの場所では 0.1 Munk程度と小さかった。また、ファインスケールのシアー/ストレイン比(Rω)は、多くの場所で GMレベル(Rω=3)かそれ以上であり、特に、SACCF以南で非常に大きな値をとる傾向が確認された。 以上の観測結果は、背景内部波場のスペクトルが GMスペクトルと比べて低周波数側に著しく歪んでいることを示している。実際、この事実と整合的に、現在までに提案されている4種類(G89, W93, GHP, IH)の乱流パラメタリゼーションの式のうち、シアーの情報のみを使用する G89は乱流散逸率を過大評価、ストレインの情報のみを使用する W93は過小評価してしまう傾向が明らかになった。これに対して、背景内部波場のスペクトルの周波数方向の歪みを考慮した GHPや IHは、G89や W93よりも高い精度で実際の乱流散逸率を予測できることが確認できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
海底直上までの乱流強度分布を観測する上で必要不可欠な投下式深海乱流計 VMP-X(カナダ・ロックランド社製)の開発・調整の遅延によりその導入が遅れてしまったため、今年度の「海鷹丸」航海では VMP-Xを使用した観測が実施できず、研究室が所有している別の深海乱流計 VMP-5500を用いた観測となった。次年度以降、再度「海鷹丸」航海に参加し、VMP-Xを使った観測を行うことで、より海底に近い地点での乱流強度の鉛直分布を取得していく予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
「海鷹丸」遠洋航海中の観測により得られたデータの詳細な解析から、南極周極流直下の観測点においては、既存のパラメタリゼーションの式には組み込まれていない地衡流シアーの効果のため、実際の乱流散逸率を過大評価をしてしまうことが分かった。 今後は、深海内部波場と重なる地衡流シアーの存在が Rωの値や内部波のドップラーシフトなどを変化させることで、乱流散逸率の見積もりにどのような効果を及ぼしているのかを中心に考察を進め、地衡流シアーが共存する深海内部波場における乱流パラメタリゼーションの定式化に繋げていく予定である。また、VMP-Xを使用して、再度「海鷹丸」航海で南大洋周辺における海底直上の乱流強度分布を観測することで「南大洋における風起源乱流パラメタリゼーション」の有効性の確認・定式化を進めていく。
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