2015 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
15H02183
|
Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
田中 敬二 九州大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (20325509)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
春藤 淳臣 九州大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (40585915)
松野 寿生 九州大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (50376696)
織田 ゆか里 九州大学, 工学(系)研究科(研究院), 研究員 (20625595)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
Keywords | 高分子構造・物性 / 表面・界面物性 / ナノ材料 |
Outline of Annual Research Achievements |
高分子を医用材料として使用する際、その多くは水環境下で使用されることから、水界面近傍における高分子の構造・物性を明らかにすることは、優れた医用材料の開発に極めて重要である。本研究では、生体不活性な多分散ポリ(アクリル酸2-メトキシエチル) (PMEA)とポリメタクリル酸メチル(PMMA)を混合し熱処理を施すことで、PMEAを表面偏析させた膜を作製した。和周波発生(SFG)分光測定に基づき水界面におけるPMEAの分子鎖凝集構造を評価した結果、PMEAの局所コンフォメーションが乱雑化し、また、水の構造も乱雑化することを見出した。このブレンド膜においても高い血小板粘着抑制能を有していることから、水界面におけるPMEAの凝集構造が水の構造および生体不活性に寄与していると考えた。さらには、ポリマーブレンド表面・界面における分子鎖の凝集状態および熱運動性は構成成分の分子量に依存するため、分子量制御を行った単分散PMEAの水界面における分子鎖熱運動性と生体不活性の関係についても検討した。蛍光色素のクマリンを導入したPMEA (C-PMEA)をLangmuir-Blodgett法によりブレンド膜表面に積層し、水中で蛍光偏光解消測定を行った。C-PMEAの蛍光異方性比(r)は時間とともに減少したことから、クマリンの回転緩和が起こっていることが明らかであった。その際の平均回転緩和時間(<τrot>)はC-PMEAの分子量の低下とともに短くなった。誘電緩和測定の結果から、ここで観測している分子運動はPMEA主鎖の熱運動と密接に関係していることが明らかである。水界面におけるPMEA主鎖のダイナミクスをVogel-Fulcher-Tamman (VFT)式に基づき議論した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の予定では、平成27年度は、ポリメタクリレートやポリビニルエーテル、これらに蛍光色素を導入した試料の精密合成、また、これらを製膜した際の最外層領域の精密構造解析、さらには、界面ダイナミクスの基礎的検討を目的としていた。試料の精密合成は、リビングラジカル重合、アニオン重合ならびにカチオン重合を駆使することで成功した。また、膜最外領域の精密構造解析は、和周波発生分光やX線光電子分光などの界面選択分光に加え、中性子反射率測定を行うことで達成した。また、さまざまなモードの走査フォース顕微鏡観察も行った。界面ダイナミクスに関しては、誘電緩和測定ならびに液中走査フォース顕微鏡測定を併用することで実現した。これらの成果は上述したとおりであり、当初の目的を十分に達成している。 さらには、平成28年度以降に実施予定であった界面ダイナミクスに及ぼす分子構造因子の検討、さらには、高分子ダイナミクスと水の凝集構造の相関の解明にも着手した。これらの成果を総合的に判断して、当初の計画以上の進捗であると結論した。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成28年度においても、界面ダイナミクスに及ぼす分子構造因子の検討、さらには、高分子ダイナミクスと水の凝集構造の相関の解明は継続する。特に、分子量、分子量分布、末端基、立体規則性等の高分子の一次構造だけでなく、系の温度や高分子膜の熱履歴などを変化させることで、界面構造およびダイナミクスの変化を観測し、それらの制御法を確立する。また、多分岐高分子を少量添加することにより、界面構造・物性の制御も試みる。SFG分光測定に基づき評価する。予備検討として、分子量の異なる高分子を用いて、界面における水の凝集状態を評価した。この場合、界面における高分子の凝集状態は試料間で同様であるが、セグメント運動の速さが異なることがわかっている。ダイナミクスが速くなると高波数領域のシグナルが強くなる、すなわち、水素結合の弱い水の割合が増加したことから、界面近傍の水の構造がより乱雑化することがわかる。 平成28年度では、PMMAおよびPEVEの界面ダイナミクスが水の凝集状態に及ぼす影響を系統的に評価する。さらには、界面ダイナミクスと機能性の関係として、タンパク質吸着および細胞挙動の評価を行う。アルブミン、イムノグロブリン等の血清タンパク質ならびに細胞接着関連タンパク質であるフィブロネクチンを用いて吸着実験を行う。体液と接触する界面を可能な限り厚くし、そのダイナミクスをタンパク質の拡散にチューニングすることで、タンパク質吸着の制御を試みる。また、タンパク質吸着界面に対し細胞接着実験を行う。細胞種として、線維芽細胞を使用し、初期接着、増殖、伸展、運動性を経時観察する。F-アクチン形成をファロイジン染色により、また接着斑形成に関与するビンキュリンやパキシリンを免疫蛍光染色することで、細胞膜上のタンパク質を観察し、高分子界面の分子鎖ダイナミクスが、細胞の接着性、運動性に及ぼす影響を評価する。
|
Research Products
(24 results)