2016 Fiscal Year Annual Research Report
水循環システムに起因する水系感染症ウイルスの環境適応進化メカニズムの解明
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15H02272
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
大村 達夫 東北大学, 未来科学技術共同研究センター, 教授 (30111248)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
李 玉友 東北大学, 工学研究科, 教授 (30201106)
佐野 大輔 北海道大学, 工学研究院, 准教授 (80550368)
渡辺 幸三 愛媛大学, 理工学研究科(工学系), 准教授 (80634435)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 胃腸炎ウイルス / 消毒剤耐性 / ノロウイルス / ロタウイルス / 遊離塩素 |
Outline of Annual Research Achievements |
ヒトノロウイルスの代替としてマウスノロウイルス、ヒトロタウイルスとしてサルロタウイルスを用い、遊離塩素への繰返し曝露がもたらすウイルス集団の遺伝的応答に関する研究を行った。昨年度までに、マウスノロウイルスの遊離塩素耐性集団を実験的に取得し、さらに次世代シーケンスにより外殻タンパク質VP2のアミノ酸変異が遊離塩素耐性をもたらしていることを示唆する結果を得た。本年度は、マウスノロウイルスに遊離塩素耐性をもたらす遺伝的要因の特定、及びサルロタウイルスを用いた遊離塩素への繰返し曝露実験により遊離塩素耐性集団の取得を行った。 マウスノロウイルスに関しては、遊離塩素耐性集団からプラック法により複数株を単離し、VP2の該当位置にアミノ酸変異が生じているか否かを確認した。その結果、3株の野生株及び3株の変異株を得た。その後、これらの株の遊離塩素感受性を比較したところ、全ての変異株は野生株と比較して高い遊離塩素耐性を有することが確認された。 サルロタウイルスに関しては、遊離塩素曝露・増殖を5回繰り返すことで、遊離塩素耐性ウイルス集団を得ることに成功した。繰返し遊離塩素曝露実験は2回行ったが、それぞれにおいて遊離塩素耐性が高い集団が得られ、遊離塩素曝露集団は非曝露集団より2倍程度高い遊離塩素耐性を示した。遊離塩素曝露集団及び非曝露集団からゲノムRNAを抽出し、全ゲノム配列を次世代シーケンスにより解析したところ、曝露集団において、外殻タンパク質VP7のアミノ酸番号281のおけるトレオニンからイソロイシンへの変異(T281I)の増加が見られた。この変異の頻度と不活化効率に間には統計的に有意な相関が得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究の仮説は、「胃腸炎ウイルスの生存戦略が、変異速度に代表されるウイルス学的性質と、そこから派生するウイルス粒子自体の物理化学的性質の環境適応による進化に依存している」というものである。この仮説は、「生活環の中で環境ストレスに曝されることにより、環境ストレス耐性を有する変異個体が出現する確率が高まる」と言い換えられる。ここで水処理プロセスにおける消毒処理を胃腸炎ウイルスに対する環境ストレスの1つと考えると、本研究の仮説が正しければ、ウイルスが消毒処理を繰り返し受けることにより、耐性を保持する方向に集団全体が適応進化すると考えられる。この仮説を証明する上で、ヒトノロウイルスとヒトロタウイルスの代替として用いているマウスノロウイルス及びサルロタウイルスについて、遊離塩素への繰返し曝露によって遊離塩素耐性ウイルス集団が得られ、さらに外殻タンパク質中に遊離塩素耐性をもたらしうる変異を見出したこと大きな成果であると言える。特にサルロタウイルスに関し、VP7における特定のアミノ酸変異(T281I)の頻度と不活化効率の間に統計的に有意な相関が見られたことは、これまでに知られていない知見である。イソロイシンは疎水性残基であり、外殻タンパク質に生じた変異による疎水性残基間の相互作用が外殻タンパク質に構造安定性をもたらしたことにより、RRVが遊離塩素耐性を獲得したと考えられる。以上の全ての成果は、本研究の仮説を実証する重要な新規知見であることから、この1年間の間に本研究は大きく進展したと言える。
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Strategy for Future Research Activity |
研究2年目において、マウスノロウイルス及びサルロタウイルスの遊離塩素感受性に影響を与えるアミノ酸残基が同定された。研究最終年度である3年目においては、マウスノロウイルス及びサルロタウイルスの集団から複数株をプラック法により単離し、各株のアミノ酸配列及び遊離塩素感受性を評価する。マウスノロウイルスに関しては、すでに計6株の単離株を得ているが、最終年度においてはさらに単離株数を増やして検証する。マウスノロウイルスとサルロタウイルスに関して得られた成果は、ウイルスごとに国際学会での研究発表を行い、さらに国際雑誌への投稿論文として完成させる。具体的には、マウスノロウイルスに関する成果の要点を国際水協会世界会議で発表し、成果全体をApplied and Environmental Microbiologyに投稿する。サルロタウイルスに関する成果は、その要約を国際食品・環境ウイルス学会で発表し、成果全体をJournal of Virologyに投稿する。これらの成果発表まで確実に進展させることで、本研究を当初計画通り遂行する。
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Research Products
(7 results)