2015 Fiscal Year Annual Research Report
硬質脆性材料の低温変形能-微小体積変形試験から導き出す新規な材料物性
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15H02300
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
乾 晴行 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (30213135)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
岸田 恭輔 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (20354178)
岡本 範彦 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (60505692)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 協調的原子集団励起 / プラストン / マイクロピラー / 試験片サイズ依存性 / 臨界体積 / 破壊靱性 / 核生成 / 収縮転位 |
Outline of Annual Research Achievements |
硬質材料は,非常に高い強度をもち,複合材料の強化相のみならず,それ自身も超高温材料として期待されている.SiCや遷移金属シリサイドなどがその代表例であるが,実用上の問題はその脆さにある.現実にこれらの硬質材料の変形開始温度は1000℃近傍にも達する場合が多く,それ以下では変形能を全く示さない.しかし,最近の我々のマイクロピラー試験片を用いた研究から,硬質材料でバルクでは発現しない低温変形能が存在することが明らかとなりつつある.本研究では,SiCなどの構造用セラミックスやMoSi2などの遷移金属シリサイド単結晶を用いて,破断が先行するバルクでは発現しない新規な力学物性である「脆性硬質材料の低温変形能」をそのメカニズムとともに転位核生成の臨界体積(活性化体積)という新規な観点から解明することを目指した. 6H-SiC単結晶をバルクでの唯一のすべり系である底面aすべりが活動する方位で圧縮すると,バルクでは最低でも1000℃の変形温度が必要であるが,ミクロンオーダー(1~10μm)のマイクロピラー試験片では4GPa程度の非常に高い臨界分解せん断応力(CRSS)を伴って室温でも底面aすべりの活動が可能である.底面すべりが活性化しない六方晶a軸方向から圧縮しても,マイクロピラー試験片では室温でも8GPa程度の非常に高いCRSSを伴って柱面aすべりの活動により変形能が生じた.そのCRSSは,試験片サイズをサブミクロンオーダーまで小さくしても,殆ど試験片サイズに依存せず一定値を示す.遷移金属シリサイドでも同様に低温変形能が観察されたが,CRSSにはわずかながら試験片サイズ依存が見られた.これらの事実は,バルクとは異なる新規で特異な変形機構が低温(室温を含む)で働き,CRSSは転位の核生成応力そのものであり,転位移動の活性化体積と同等の転位核生成の臨界体積が存在する可能性を示唆している.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
硬質脆性材料の低温変形能は,非常に高い応力レベルで発現するもので,その定義から試験機にかかる荷重をできる限り小さくする必要がある.そのためには,マイクロピラー試験片サイズが極限まで小さくなった状態で評価する必要があり,実験的にサブミクロンメーターサイズの試験片をバルク試験と同様の条件で変形できる実験手法を確立することを本年度の研究の最重要課題とした.試験片のFIB加工手法(試料両端の平行度の確保)の開発,試験片端面と圧縮治具(ダイヤモンド・フラットパンチ)の平行度の確保,位置決め手法の確立をすべてクリアし,サブミクロンメーターサイズの試験片を変形できる実験手法の確立を達成した.現在,実験可能な最小試験片サイズは0.05~0.1μmである.またこれまで,低温変形能の発現をSiCに加えて,数種のMSi2系(MoSi2, CrSi2, VSi2, NbSi2, TaSi2, TiSi2)遷移金属シリサイドおよびM5Si3系(Mo5Si3, Cr5Si3, Nb5Si3)遷移金属シリサイドで見出しており,当初の計画以上に研究が進展している.バルクの高温変形で得たらたCRSSの温度依存性の延長線上に低温変形能のCRSSがプロットできる場合とそうでない場合がある.これは,低温変形での変形メカニズムがバルクの高温変形のそれと同じかどうかに依存し,低温変形での変形メカニズムを透過電子顕微鏡法を駆使して解明できている.変形メカニズムの支配因子を解明しているところである.
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Strategy for Future Research Activity |
現在までの進捗状況で記載したように,SiCをはじめとして多くの遷移金属シリサイドで低温変形能の発現を確認した.しかし,すべての硬質脆性材料が微小体積となれば必ず低温変形能を発現するわけでなく,Fe2Ti系Laves相やB4C, Al2O3などのセラミックで低温変形能の発現はまったくなく脆性的な破断が観察された.これは,低温変形能の発現には転位が移動できることは不可欠であるが,その活性化応力が重要である.試料サイズが小さくなるほど転位の活性化応力は増大するが,破壊靱性が高ければ,この活性化応力は破断応力よりも小さく,低温変形能が発現すると仮説を立てている.微小体積で破壊靱性を測定するマイクロビーム法を開発中であり,測定した破壊靱性値を用いて,低温変形能のメカニズムとともにその発現因子を理論的に解明できると考えている.すべて当初計画よりも順調に進展しており,特筆すべき研究計画の変更や研究遂行上の問題点はない.
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Remarks |
チェコ国科学アカデミー物理学研究所Vaclav Paidar博士と典型的な硬質脆性材料のひとつである遷移金属シリサイドの脆性挙動の本質に関して議論を行っている.具体的には,転位の易動度,それに及ぼす転位の分解様式について議論を行い,3報の学術論文を発表した
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Research Products
(23 results)