2016 Fiscal Year Annual Research Report
細胞のエネルギーフリー長期常温乾燥保存(細胞の乾物屋)を目指した基盤技術の開発
Project/Area Number |
15H02378
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
櫻井 実 東京工業大学, バイオ研究基盤支援総合センター, 教授 (50162342)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 乾燥保存 / LEAタンパク質 / トレハロース / 分子シミュレーション / ネムリユスリカ / 水 |
Outline of Annual Research Achievements |
1) G3LEAペプチドのタンパク質凝集抑制機能を明らかにするため、ターゲットタンパク質としてリゾチームを選択し、乾燥過程の粗視化MDシミュレーションを行った。脱水するにつれ、2つのリゾチーム分子は互いにコンタクトできる程度まで重心間距離が近づいたが、これら2分子間にはG3LEAペプチド分子の集団が挟まり、リゾチーム同士の直接の接触が防がれ、乾燥誘導凝集が抑制される様子を観察することに成功した。 2) G3LEAタンパク質の非繰返し部分の構造と機能を調べるため、ネムリユスリカのG3LEAタンパク質の非繰返し部分から、PvLEA4-nrN (LDQTRDQIKSATDRGADKLKEG)、PvLEA4-nrC (KEQMRDTKDETLESMKSDKNKN)をデザインし合成した。CD測定の結果から、いずれも水中ではランダムコイル構造をとることがわかった。しかし乾燥するといずれのペプチドもβシートリッチな構造をとることが、FT-IRスペクトルの解析結果からわかった。動的光散乱測定とカルセイン封入リポソームの実験から、これらペプチドにはリポソームの融合防止の機能がないことが判明した。 3)乾燥ストレスにより破壊された細胞膜に対して対してトレハロースが修復機能をもつかどうかを調べるため、 高速原子間力顕微鏡による直接観察を行った。その結果、マイカ基板上の部分破壊された固定化二分子膜にトレハロースを添加すると、膜が修復される様子をリアルタイムで観察することに成功した。類似の二糖であるマルトースやスクロースにはそのような機能はなかった。 4) 当初予定していたin vivoでのG3LEAペプチドのpoly-Q凝集抑制効果の実験は再現性に問題があることが判明し断念した。 5) CRISPR/CAS9システムを用いる遺伝子編集により、ネムリユスリカの乾燥耐性に関わる遺伝子の同定に向けて一歩を踏み出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度当初計画に記した計画は80%程度達成した。20%程度達成できなかった部分があるが、その代わり、新規雇用した博士研究員の努力により、想定してなかったCRISPR/CAS9によるゲノム編集を用いた実験や、学内の共同研究者の協力を得て高速AFMによる細胞膜モデルのリアルタイム観察が可能になり、ネガティブな部分を十分にカバーした。 計画通り進行したテーマは、1)粗視化シミュレーションによるG3LEAペプチドのタンパク質保護メカニズムの解明、2)G3LEAタンパク質の非繰返しアミノ酸配列部分の構造と機能の解明である。 一方、達成できなかった部分は、哺乳類細胞内に一過性発現させたpoly-Q分子の凝集を同一細胞内に存在するG3LEAペプチドが抑制するかどうかという試験である。これについては、繰り返しの実験にもかかわらず、再現性のあるデータが得られず断念した。
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Strategy for Future Research Activity |
われわれの開発したG3LEAペプチドは、乾燥タンパク質・酵素や乾燥リポソームの保護などに利用できることを示し、同時にそのメカニズムをコンピュータシミュレーションなどを駆使して解明してきたが、今後はG3LEAペプチドの機能探索の一つの方向としてタンパク質の熱変性抑制機能などにも目を向けた実験を行う。 今年度LEAタンパク質の非繰返し配列部分には、少なくともリポソームに対する乾燥保護機能はないことが示されたが、今後はタンパク質・酵素に対する保護機能も同様にないのかどうか調べる必要がある。最終的には、LEAタンパク質の中の繰返し配列部分と非繰返し配列部分の機能を解明し、なぜ1本の鎖の中に共存する必要があるのか明らかにする。 in vivo系の実験としては、ネムリユスリカのPv11細胞を対象に、CRISPR/CAS9システムを用いる遺伝子編集により、ネムリユスリカの乾燥耐性に関わる遺伝子の同定に向けて歩を進める。
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Research Products
(11 results)