2015 Fiscal Year Annual Research Report
マウス表現型に寄与するアレル発現量バイアスの原因シス制御配列の多型解析
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15H02412
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Research Institution | National Institute of Genetics |
Principal Investigator |
城石 俊彦 国立遺伝学研究所, 系統生物研究センター, 教授 (90171058)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 遺伝学 / マウス / 遺伝子発現制御 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、表現型多様性の基盤となる対立遺伝子発現量比の歪み(アレル発現量バイアス)を検出し、発現量バイアスとクロマチン修飾状態の相関解析を通して表現型多様性の原因となるシス多型を同定することを目的とする。これまでに、マウス亜種間交配由来のF1個体の共通なトランス因子環境下で、親となる両亜種由来系統のアレルの発現量の違いを評価する目的で以下の実験を行った。西欧産ドメスティカス亜種由来のB6系統と日本産モロシヌス亜種由来のMSM系統の交配によりF1個体を得て、その成長軟骨を対象にアレル発現量バイアスを計測した。NGSによるRNA-seq解析は新学術領域研究「ゲノム支援」の支援を受けた。得られた情報を使用して、亜種間SNPを指標にアレルを区別して各リード数を計測し、アレル間の発現量比を抽出した。これにより、亜種間で発現量が顕著に異なる遺伝子群をリストアップすることができた。情報解析について、2次および3次解析の一部は、遺伝研スーパーコンピュータシステムを利用した。RNA-seq解析と同様に、F1マウスの複数組織を対象にして、活性型エンハンサーを対象にしたChIP-seq解析を開始した。コラゲナーゼ処理等により、マウス大腿骨から安定して成長軟骨部の細胞を調製する手法を確立した。ゲノムのオープンクロマチン領域を明らかにする目的で、B6系統とMSM系統の成長軟骨の細胞を用いたATAC-seq解析を開始した。ChIP-seq解析およびATAC-seq解析の結果から、B6およびMSMの遺伝子発現差に関わるエンハンサー候補領域をリストアップした。F1個体の肝臓についてATAC-seq解析を開始し、一部結果を得た。培養細胞を用いたエンハンサー活性の評価系確立のための条件検討を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究開始の本年度は、RNA-seq解析によるアレル発現量バイアスの大規模データを取得するため、マウス亜種間交配によるF1個体を作製し各種試料を採取、保存した。コントロールとしてラット(Rattus norvegicus)も一部使用した。骨組織のRNA-seq解析について、パイロット実験として骨組織から高品質なRNAを精製するための方法やその他の実験条件検討を行った。複数の骨発現遺伝子マーカを実験的に確認し、NGSによるRNA-seq解析を遂行できる品質のRNAを得ることができた。RNA-seq解析による遺伝子発現量計測については、先ずは5週令の雌雄を対象にして、B6、MSM、これらの正逆F1個体、およびラットについて成長軟骨組織を対象としたNGSによった。これらの情報解析については、解析対象が亜種や別種を含むため、ゲノム多型を考慮して正しく発現量比を評価するための各種検討を継続して行っている。本研究では、H3K4me1やH3K27acなどのヒストン修飾状態、さらにはクロマチンのオープン状態を活性型エンハンサーの指標として用いるが、種間のみならず、亜種間についても精度よくゲノム構造多型を検出するため、高品質なゲノム情報解析を遂行するための条件検討を行った。一連のゲノム機能解析を行うために、生体由来組織から安定して細胞核とクロマチンの調製を行うためのプロトコールを確立し、これによりChIP-seqやATAC-seqに供する試料を得ることができている。肝臓や精巣など異なる組織からも順調にデータ取得が進行中である。ルシフェラーゼアッセイによる培養細胞を用いたエンハンサーの評価系を確立できた。これによりこれまでにリストアップしたエンハンサー候補の一部をB6系統とMSM系統からクローニングし、転写活性能の亜種間差を確認することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
アレル発現量バイアスの大規模データを取得するためのRNA-seq解析は順調に遂行しており、当初の計画に従って進行させる予定である。追加のアレル発現量バイアス解析については、現有データの2次、3次解析結果や予算状況も考慮して判断する。配列データの解析に当たっては、B6およびMSMの亜種間SNPを考慮した高精度の情報解析結果を得ることができるように、情報解析の研究協力者と連携した解析を継続する。また、ラットなど齧歯目の他種の成長軟骨のRNA-seq解析については、マウス亜種間でみられる遺伝子発現状態の違いと比較することで、哺乳動物全般に共通したアレル発現量バイアスとシス配列多型の探索を行う。シス制御配列多型に対応する候補遺伝子の発現レベルを定量PCRで計測する。野生由来系統のゲノム多型データも使用して、アレル発現量バイアスと相関するシス制御配列上のSNPやIndelの絞り込みを行う。亜種間のアレル発現量バイアスを示す遺伝子と活性に差のあるエンハンサーの候補配列の機能連関を明らかにするため、その指標となる染色体のループ構造をゲノムワイドに解析する。一例として、アレル発現量バイアスを示す対象遺伝子群を対象にして、それらのプロモーター近傍の塩基配列に対応するビオチン化RNAプローブを設計し、プロモーターと相互作用したクロマチンDNA断片を標識プローブにより選別する。これらの配列情報をNGSにより計測して、エンハンサーの候補となる領域を網羅的に抽出する。特に、アレル発現量バイアスと相関する染色体ループ形成強度を示すゲノム部位を探索してシス制御配列候補を抽出する解析に着目する。これら一連の解析を通して、引き続き亜種間表現型多様性に関連し、アレル発現量バイアスの原因となるシス多型(SNPやIndel)の同定研究を推進し、各種表現型の亜種間差と結びつける。
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Research Products
(1 results)