2017 Fiscal Year Annual Research Report
感染植物アポプラストに分泌される植物-病原菌相互作用に関与するペプチド因子の同定
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15H02433
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
柘植 尚志 名古屋大学, 生命農学研究科, 教授 (30192644)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
花田 耕介 九州工業大学, 大学院情報工学研究院, 准教授 (50462718)
望田 啓子 (桑田啓子) 名古屋大学, トランスフォーマティブ生命分子研究所, 特任助教 (70624352)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 植物病理学 / 菌類 / 植物 / 病原性 / 抵抗性 |
Outline of Annual Research Achievements |
Fusarium oxysporum病原菌は、宿主作物の根から侵入、導管内で蔓延し、萎凋・枯死を引き起こす。本菌と植物が対峙する導管には、菌が感染を成立させるための因子(エフェクター)を、また植物が菌の感染阻害因子をそれぞれ分泌していると予想される。本研究では、これまで解析されていない低分子タンパク質(30~99アミノ酸)も対象とした感染植物の導管液プロテオーム解析によって、病原菌の新奇エフェクター、植物の新奇抗菌タンパク質の同定を目指す。今年度は、主に以下の研究を実施した。 前年度までに、メロンつる割病菌接種メロンの導管液プロテオーム解析によって、菌由来の417個のタンパク質を同定し、エフェクター候補を選抜した。これまでに、17個の候補遺伝子の破壊株を作出し、新奇な6個のエフェクター遺伝子を同定した。今年度は、つる割病菌を接種し、4、6、8日後に回収したメロン根のRNA-Seq解析を行った。RNA-Seqデータからつる割病菌の導管液分泌タンパク質遺伝子の情報を抽出し、感染時に菌のアクチン遺伝子よりも高発現する54遺伝子を同定した。 昨年度、トマト萎凋病菌接種、非接種トマトの導管液のプロテオーム解析を実施し、30個の低分子タンパク質を含む1,025個のトマトタンパク質と233個の萎凋病菌タンパク質を同定した。本年度は、菌由来および植物由来タンパク質の特徴をカタログ化し、メロンつる割病菌接種導管液のデータと比較した。その結果、萎凋病菌タンパク質のうち約半数が、メロンつる割病菌接種メロンからも検出されており、これらが両分化型に共通な感染時分泌タンパク質であることが明らかとなった。 先に同定したシロイヌナズナの抗菌性低分子タンパク質に加え、トマト導管液タンパク質について、部分ペプチド(20アミノ酸程度)を合成、胞子発芽阻害活性を検定し、新奇な抗菌性タンパク質候補を見出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
植物-微生物相互作用に関与する因子の同定を目的とする場合には、感染植物が最も理想的な材料であることは言うまでもない。近年の分析機器の高性能化とゲノム情報の整備によって、タンパク質を分離・精製することなく、網羅的に同定することが可能となり、あらためて感染現場に注目すべき時を迎えた。本研究では、導管液の前処理方法を検討するとともに、高性能LC-MS/MS装置を駆使したプロテオーム解析によって、メロンつる割病菌感染メロン、トマト萎凋病菌感染トマトの導管液から菌由来の417個、233個のタンパク質をそれぞれ同定した。植物病原菌が感染植物中で生産・分泌するタンパク質を同定した報告はあるが、これほど多数の菌由来タンパク質を同定した例はない。さらに、メロンつる割病菌接種メロン根のRNA-Seq解析によって、感染時に高発現する54個の導管液分泌タンパク質遺伝子を同定した。これらの情報に基づき、これまでに新奇な6個の病原性関連遺伝子の同定に成功した。 また、トマト萎凋病菌接種、非接種トマトの導管液プロテオーム解析によって、これまでに30個の低分子タンパク質(99アミノ酸以下)を含む1,025個のトマトタンパク質を同定するとともに、それらの継時的な量的変化に関するデータも取得した。トマトの導管液タンパク質について、部分ペプチドを合成し、植物病原糸状菌に対する抗菌活性の検定も進めており、新奇な抗菌性タンパク質候補を見出している。 以上のように、今年度は、当初予定した研究をほぼ実施することができ、研究は順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
導管液から検出したメロンつる割病菌タンパク質の種々の特徴から、病原性に関与することを明らかにした6個のタンパク質に加え、さらに20個ほどのエフェクター候補を選抜している。次年度は、遺伝子破壊によるエフェクター遺伝子の同定をさらに進める。また、アグロインフィルトレーション実験系を用いて、エフェクター遺伝子をベンサミアナタバコで一過的に発現させ、植物に対する作用性について検討する。 トマト萎凋病菌接種トマトの導管液プロテオーム解析に加え、接種後継時的なRNA-Seq解析を実施し、萎凋病菌の導管液分泌タンパク質遺伝子の感染時の発現パターンを経時的に解析する。得られたデータを整理し、メロンつる割病菌の導管液分泌タンパク質遺伝子の発現パターンと比較することによって、F. oxysporum病原菌の植物感染に重要な共通遺伝子を同定する。 シロイヌナズナとトマトから見出した新奇な抗菌性タンパク質候補について、発芽阻害活性に加え、植物感染阻害活性についても検定し、候補タンパク質の機能同定をさらに進める。 メロンつる割病菌接種メロンのRNA-Seq解析によって、感染時につる割病菌の糖新生やアミノ酸生合成遺伝子が高発現することを見出した。この結果は、導管液が貧栄養条件であり、本菌の植物感染を可能にするエフェクターの生産・分泌には、菌の活性を支える基礎代謝が重要であることを示唆した。次年度は、導管液に含まれる糖、アミノ酸の濃度を定量し、植物と病原菌が対峙する導管内の菌にとっての成育環境(栄養条件)についても検証する。
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Research Products
(4 results)