2017 Fiscal Year Annual Research Report
アルツハイマー病発症リスク因子の分子病態の理解に基づく認知症先制医療法の開発
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15H02492
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
富田 泰輔 東京大学, 大学院薬学系研究科(薬学部), 教授 (30292957)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | アルツハイマー病 / 認知症 / リスク因子 / アミロイドβ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究においては、AD発症リスクに影響を与える遺伝学的・環境因子が、Aβ蓄積からtau蓄積、脳内炎症性反応から神経細胞変性というAD発症のセントラルパスウェイに対してもたらす分子病態を解明し、そのメカニズムに基づいた、個々人に対する最適化先制医療法の開発を最終目標として研究を進めている。AD研究における大きな問題点の一つに、Aβ蓄積モデルマウスではtau蓄積が認められないことがある。そのためセントラルパスウェイを完全にモデル化できていない。そこで当該年度においては前年度までに交配を行っていたPICALMノックアウトマウスもしくBIN1ノックアウトマウスとAβを蓄積するAPPノックインマウスとのコンジェニックマウスに、さらにtau蓄積を惹起するPS19マウスを交配し、アミロイド斑の蓄積とtau蓄積が同時に生じるマウスの作出に成功した。このモデルマウスを用いて各リスク因子の影響を検討する。またKLK7についてはリコンビナントタンパクの脳内投与によりAβ量が低下することを確認したことから、KLK7の発現上昇はAD治療・予防法となりうることが示された。加えて、脳内においてミクログリア特異的に発現するAD発症リスク修飾因子の一つINPP5DノックアウトマウスとAPPノックインマウスの解析から、アミロイド蓄積に対するミクログリアの集積をこの分子が制御している可能性を見出した。一方、前年度前に行ったスクリーニングにより、グリア細胞におけるAβ分解活性を制御するシグナル伝達機構に関わる受容体として、不飽和脂肪酸をリガンドとするGPR120を同定した。APPトランスジェニックマウス脳内にGPR120アンタゴニストを投与することにより、Aβ量の有意な低下を認め、in vivoでの病的重要性を明らかとした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該年度においては遺伝学的AD発症リスク因子がAD病態に及ぼす影響に関して更に進化させる目的で、APPノックインマウスとtau蓄積モデルマウスPS19との交配、APPトランスジェニックマウスとCas9マウスの交配を進めた。前者はAβ蓄積からtau蓄積に至る分子機構解明に用いることができるモデルマウスであり、後者についてはこれまでに確立したレンチウイルスとCRISPR/Cas9システムを用いたin vivoゲノム改変技術をプラクティカルにAβ蓄積病態に関して検討するためのモデルとなりうる。ともにコンジェニックマウスの樹立に成功したことから、これまで細胞レベルで解析を行ってきたリスク因子に関する分子病態研究を、さらに細胞病態から脳内蓄積病態解明に展開する準備ができたと言える。。さらに前年度までに見出したアストロサイトにおけるグルタミン酸受容体、及びGPCRを介したシグナル経路に加え、新たにミクログリアにおけるリスク因子INPP5Dの解析を進め、これらの分子パスウェイがin vivoでAβ病態に影響することを見出した。これらの成果はグリア細胞がAD発症セントラルパスウェイを修飾していることを明確にしたものであり、研究としても順調に進行していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度までの遺伝学的AD発症リスク因子の研究から、あらためてグリア細胞の寄与、特にAβやtauなどの異常タンパク蓄積病態に対するこれら脳内自然免疫システムとの病的関連性が明確化し、様々な新規分子およびメカニズムがAβ病態に影響することを解明できた。そういった中で、これまでに分子レベルでの病態研究から、これら異常タンパク蓄積病態が惹起する分子病態がおよぼす細胞レベルでの変化、特にグリア細胞病態を理解することが重要であると提言することができた。そこでまず、先行しているPICALM、BIN1の影響について、新たに樹立したAPP/tauコンジェニックマウスを用いて、Aβ濃度亢進後に引き続くtau蓄積・伝播、脳内炎症から神経変性・細胞死という観点から検討を行うと同時に、申請者が見出したアストロサイトにおけるAβ病態修飾因子KLK7、そしてINPP5Dなどのミクログリアにおける遺伝学的リスク因子の解析を進める。特に治療・予防法開発という点では、GPR120シグナルが脳内Aβ代謝に与える機構について、KLK7を始めとする候補分子について解析を行うと同時に、網羅的手法を用いて解析を進めていく予定である。と同時に、Cas9マウスとAPPトランスジェニックマウスのコンジェニックマウスの樹立に成功したことから、これまでに見出した自然免疫系やGPCRシグナル関連分子に対するin vivoゲノム操作技術を活用し、脳内タンパク異常蓄積病態への寄与を明らかとしていく。
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Research Products
(57 results)