2015 Fiscal Year Annual Research Report
オーガニックな殺虫システム「タンパク質殺虫剤」と「耐虫性組換え食品」の体系的展開
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15H02837
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Research Institution | Tokyo University of Agriculture and Technology |
Principal Investigator |
佐藤 令一 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (30235428)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
天竺桂 弘子 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 講師 (80434190)
菊田 真吾 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 助教 (90718686)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | オーガニック殺虫剤 / 組替え食品 / タンパク質殺虫剤 / BT / 進化分子工学 |
Outline of Annual Research Achievements |
①BT殺虫性タンパク質Cry1Aaが良く効くチョウ目昆虫の受容体分子ABCC2あるいはそれと近縁関係にある分子のアミノ酸配列を集め、系統樹を描いた。その結果、それらのABCC2は皆一つの大枝のもとの近い位置に配置された。一方、Cry1Aaが効かないことが知られている昆虫である、甲虫目、ハエ目、ハチ目などのABCC2の近縁分子のアミノ酸配列を集めて系統樹を描いたところ、それらはチョウ目昆虫のABCC2とは異なるクレード(異なる枝のグループ)を形成した。この解析結果から、ABCC2はチョウ目昆虫のみに存在するグループであり、Cry8Caが効く昆虫の類縁分子は既に少し離れた位置関係にあることが明らかになった。一方、②人培養細胞HEK293細胞に①のABCC2もしくはその近縁分子を発現させ、Cry1AaとCry8Caに対する感受性を調査し、それらの受容体としての機能を検討した。その結果、調べた限りのチョウ目昆虫のABCC2はCry1Aaに対して感受性を示し、チョウ目昆虫ABCC2の多くがCry1Aaの受容体として機能すると考えられた。一方、コクヌストモドキのABCC2近縁分子はCry1Aaの受容体としては機能しないが、Cry8Caに対しては受容体と機能することが明らかになった。すなわち、ABCC2とその近縁分子は広くBT殺虫性タンパク質に対して受容体として機能することが明らかになった。殺虫性タンパク質Cry1Aaのループ部位変異体を用いて「昆虫に効く関係」と「効かない関係」でカイコガABCC2に対する相互作用がどう異なるかを調査した。その結果、「効く関係」においては必ず結合を示すが、「効かない関係」でも結合性を示す場合があった。これらのことから、「結合≠作用できる」であることが明らかになった。④Cry8Caのループ部位変異体のT7ファージ提示ライブラリーを2種類作製した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今期は「カイコのABCC2を対象とした進化分子工学的な殺虫活性改善系の構築」だけが実現できなかった。一方、この系に関しても、バキュロウイルスによるABCC2分子の大量調製系は大方の完成を実現できた。今後は、これから得られるABCC2分子を利用して、まず最初に、Cry1Aa提示ファージを濃縮できる系を構築する。また、次に、Cry8Ca殺虫性タンパク質提示ファージライブラリーの中から結合性が増したCry8Ca変異体が選抜できるパニングスクリーニング系を完成させる。一方、予想外のうれしい展開としては、カイコのABCC3もCry1Aaの受容体として機能しうることが本研究で明らかになった。よって、研究はおおむね順調に進んでいると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は、一方で、体系的にBT殺虫性タンパク質が受容体として使える分子を解明し、更には「受容体として使えるとはどのような関係性にあることか」を解析するといった基盤研究を行う。また、他方では、受容体を固定化したプレートで変異体殺虫性タンパク質を提示したファージをスクリーニングする、「進化分子工学のシステム作り」を試み、トータルで「BT菌が進化の過程で成し遂げてきた様々な殺虫性タンパク質作出を真似た人為的な『新殺虫性タンパク質作出』の方法を構築しよう』とするものである。ところで、うれしい誤算として、当研究により、受容体タンパク質がABCC2ばかりではないことが明らかになり、更には多くの報告により、更に新しい分子にも受容体である可能性が示唆され始めた。そこで、今期は「体系的にBT殺虫性タンパク質が受容体として使える分子を解明」を更に幅広く展開することとし、まずは、既知の受容体を使わない殺虫性タンパク質の割り出しを目指し、候補と考えられるCry1Ca、Cry1Da、Cry2Aa、Cry9Da殺虫性タンパク質がBmABCC2、BmABCC3やカドヘリン用受容体を使えないことをこれらの受容体の強制発現細胞を用いて解析し、更にはこれらの殺虫性タンパク質の受容体となるタンパク質の解析へと展開させたい。また、新しく受容体であることが判明した分子、BmABCC3については昆虫固体における発現の特性や昆虫固体におけるにBmABCC2との協調関係に関してはほとんど情報が無い。そこで、これらに関して調査を展開することとする。一方、「進化分子工学のシステム作り」に関しては、「進捗状況の理由」において既に述べたように、Cry8Ca殺虫性タンパク質提示ファージライブラリーの中から結合性が増したCry8Ca変異体が選抜できるパニングスクリーニング系の完成に向け、材料と作業条件の確立を目指して動きたい。
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