2015 Fiscal Year Annual Research Report
健聴児ならびに聴覚障害児の数学的コミュニケーション能力の測定方法の開発
Project/Area Number |
15H02909
|
Research Institution | Gunma University |
Principal Investigator |
江森 英世 群馬大学, 教育学部, 教授 (90267526)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
森本 明 福島大学, 人間発達文化学類, 教授 (60289791)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | 小中等教育 / 算数・数学教育 / 数学的コミュニケーション / 聴覚障害児教育 |
Outline of Annual Research Achievements |
「健聴児ならびに聴覚障害児の数学的コミュニケーション能力の測定方法の開発」という研究目標に対して、初年度の平成27年度は、目標(1)「式の意味」の理解に関する能力の同定と特性の分析に取り組んだ。以下、初年度の研究実績の概要について述べる。 「式」は、コミュニケーション手段としての数学的表現として、最も大切なものの1つである。日常生活での問題を抽象化して数学の世界の問題として数学化するとき、私たちは、通常、問題の文脈を式という数学的表現に置き換える。その時には、数学化された問題は、まだ具体的な意味を所有しているし、表現された式そのものにも意味が付与されている。それゆえ、問題解決へ向かう思考の差異は、表現としての式の形式の差異として表出される。しかし、学校数学では、一度、式に表現されてしまうと、そこに付随していたはずの意味は問われることもなく、式を計算することに学習者の思考を向かわせてしまっている。平成27年度では、小学校算数科1年から中学校数学科3年までの義務教育9年間の教材の中から、式の意味の理解に差異が生じやすいと考えられる教材を、授業観察などを通して選別した。その結果、例えば、小学2年「20個のおはじきを十字(各2列)に並べ、その配列をかけ算、足し算、引き算を使って式で表す課題(かけ算)」、小学5年「多角形の角の大きさの和を式で表す課題(多角形の角)」、中学1年「画用紙の配り方の違いを式に表す課題(1次方程式)」など、これまで多様な考え方として指導の重点が置かれていた教材を、式の意味理解やその不足がもたらすコミュニケーション障害が出やすい指導場面として考察することにより、これらの課題を評価問題として採択することができるという見通しを持つことができた。今後は、コミュニケーション分析や質問紙調査結果の分析を通して、評価指標の確定を目指していくことにする。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「健聴児ならびに聴覚障害児の数学的コミュニケーション能力の測定方法の開発」という研究目標に対して、本研究では、5つの下位目標(目標(1)「式の意味」の理解に関する能力の同定と特性の分析、目標(2)「図表グラフの意味」の理解に関する能力の同定と特性の分析、目標(3)「他者理解」をもたらす関連知識を想起・活用する能力の同定と特性の分析、目標(4)「自分の思考」を他者へ伝える能力の同定と特性の分析、目標(5)「数学的コミュニケーション能力」の測定ユニットの試作と検証)を掲げ、5カ年の研究期間において、毎年1つずつこれらの下位目標を解決していくことで全体の研究目標を達成したいと考えている。初年度の平成27年度は、目標(1)「式の意味」の理解に関する能力の同定と特性の分析に取り組んだ。初年度の研究実績の概要について述べたように、平成27年度の研究では、小学校算数科1年から中学校数学科3年までの義務教育9年間の教材の中から、式の意味の理解に差異が生じやすいと考えられる教材を、授業観察などを通して選別することができた。特に、中学校数学科の授業分析では、式の変形に習熟するために、かえって、式の違いに意味を見いだし得ない生徒が多数いることが分かった。立式してしまえば、すべての文脈を忘れても計算はできるという考え方そのものに指導上の問題はあるが、式の形式の違いにどのような意味を見いだすことができるかという式の意味理解は、数学的コミュニケーション能力を測定する重要な指標になることも、事例の分析を通して理解することができた。初年度の「式の意味」の理解に関する能力の同定と特性の分析は、これまでの研究の成果を十分に使うことができたので、研究を進める上ではとても恵まれた環境が揃っていたと言える。現在までの進捗状況は、ほぼ予定通りである。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成28年度は、本研究の2年目となる。今年度以降の4カ年の研究計画は、当初の計画通り、残された4つの下位目標(目標(2)「図表グラフの意味」の理解に関する能力の同定と特性の分析、目標(3)「他者理解」をもたらす関連知識を想起・活用する能力の同定と特性の分析、目標(4)「自分の思考」を他者へ伝える能力の同定と特性の分析、目標(5)「数学的コミュニケーション能力」の測定ユニットの試作と検証)を1つずつ解決していくことで全体の研究目標を達成したいと考えている。
|
Research Products
(4 results)