2015 Fiscal Year Annual Research Report
弾性パターニングゲルを用いたヒトiPS細胞のフィーダーフリー高速増殖技術の開発
Project/Area Number |
15H03023
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
木戸秋 悟 九州大学, 先導物質化学研究所, 教授 (10336018)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 細胞・組織工学材料 / iPS細胞 / メカノバイオロジー / 弾性基材 |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度は細胞間接着の迅速化へのアプローチとして、iPS細胞の運動方向を制御し自発的な集合を促進する収束性運動整流化を駆動する同心円状弾性勾配パターニングゲルの構築を検討した。これまでに既に確立している鋸歯状の非対称弾性勾配を繰り返し配列した弾性場による細胞運動整流作用と、同心円状の弾性パターニングを組み合わせ、円の中央に向かってiPS細胞が集合する圧力を常に負荷することで細胞間接着を最短時間で確保することを期待した培養力学場設計である。この培養力学場上でiPS細胞を高速増殖させる条件については、均一弾性場における表面ラミニン修飾密度とゲル弾性率値の最適値をすでに得ていたものの、新たなパターン上での生着・増殖を検討する段階でそれらの弾性場・表面ラミニン密度の条件に変更が生じることがわかった。このため、収束性運動誘導パターンの基礎弾性場条件およびラミニン修飾密度条件について再検討を行った。ラミニンについてはラミニン511のE8フラグメントを用い、これをゲルに密度を変えて修飾するとともに、弾性率を変えて、iPS細胞の生着と運動、および増殖挙動について系統的に調べたところ、化学固定されたラミニンと物理吸着したラミニンのiPS細胞への作用の区別が極めて重要であることがわかった。通常のiPS細胞培養において、ラミニン修飾基材が用いられるときには単なる物理吸着ラミニンを用いており、基材はプラスティックやガラスなどの数GPaの硬いものが使用されている。これに対して、軟らかいハイドロゲル上にラミニンを化学固定した場合、iPS細胞の生着は抑制されてしまい、生着と増殖を強化するためにはゲル内に残留する収着ラミニンの作用も必要となることが明らかとなってきた。初年度は、このような条件を収束性運動誘導場設計に適切に組み込むパターニングの基礎条件を見出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
iPS細胞の高速増殖を誘導する弾性場およびラミニン修飾ゲルの最適条件設計については、これまでに予備結果が得られており、特許申請にも至っているものの、初年度の検討を通じてラミニンの修飾状態に依存したさらに鋭敏なiPS細胞の生着・増殖挙動の実態が明らかとなってきた。これは当初の予備結果からさらに広がる知見であり、収束性運動誘導パターニングの設計だけを対象とする材料設計以外の検討課題が発生したことが、若干の遅れの理由である。
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Strategy for Future Research Activity |
iPS細胞の運動集合化のための収束性運動誘導パターニングの設計を効果的に進めるための前提となるゲルの条件を再度徹底的に確立する。iPS細胞の簡便・迅速な維持培養のためには、培養基材の表面化学・表面力学の両特性を正確に定義し、最適化することが本質的である。ラミニンの作用とハイドロゲルの弾性特性の効果について詳細が見えてきたため、この両効果の協調作用について早期に整理を終える。その上でiPS細胞の生着を確保し、運動の制御を可能とする弾性場設計条件について段階的に固めていく。
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