2016 Fiscal Year Annual Research Report
東北アジア辺境地域多民族共生コミュニティ形成の論理:中露・蒙中辺境に着目して
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15H03128
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
岡 洋樹 東北大学, 東北アジア研究センター, 教授 (00223991)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
橘 誠 下関市立大学, 経済学部, 准教授 (30647938)
堀江 典生 富山大学, 研究推進機構 極東地域研究センター, 教授 (50302245)
藤原 克美 大阪大学, 言語文化研究科(言語社会専攻、日本語・日本文化専攻), 教授 (50304069)
SAVELIEV IGOR 名古屋大学, 国際開発研究科, 准教授 (60313491)
広川 佐保 新潟大学, 人文社会・教育科学系, 准教授 (90422617)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | ロシア / 中国 / モンゴル / 移民 / 共生 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は「文献研究期」の二年目との位置づけで、各研究分担者は露中国境、中蒙辺境地域に関して文献研究・調査を進めた。成果の一端は、12月に北海道大学スラブ・ユーラシア研究センター主催の国際シンポジウム「流動する北東アジア~紛争か、協力か~」セッション3「中ロ関係のダイナミズム」で、堀江典生がロシアにおける労働移民について「Contested Space in the Russian Far East: Land and Migration along the Russo-Chinese Borderlands」、セッション4「地域に向き合う中国とロシア」でイゴリ・サヴェリエフが「Borderland, Homeland and Diasporic Space: Transnational Practice of Central Asian and Sakhalin Koreans」と題して移住経緯を異にするロシアの朝鮮・韓国人の自己認識・帰属意識の違いに関する報告を行い、研究代表者岡がコメントを行った。また岡は8月にウラーンバートルで開催された国際モンゴル学者会議で「The accomplice is my Acquaintance: Cross Border Bonds of Mongolians observed in the Thievery Cases in the Eighteenth Century」と題して清代の中蒙辺境地域のモンゴル人の移動様態を家畜窃盗事案を通じて検討する報告を行った。広川は学術誌で日本の満洲移民に関する史料紹介を行い、藤原は移民社会ハルビンの百貨店をめぐる女性消費者について、橘は近代初頭のモンゴル自治に関する報告を国際学会で行った。これらにより18ー21世紀の東北アジア移民について、中・蒙・露に及ぶ通時代的概観のための基礎研究が進展した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
研究代表者岡は、中蒙辺境における移民と現地住民の関係や、モンゴル地域における人の移動様態について当時の文書史料を用いた研究を進め、国際学会で発表したほか、研究分担者堀江典生とイゴリ・サヴェリエフがロシアの労働移民の現状と20世紀初頭の移民政策に関する成果を報告した。藤原克美はハルビンにおける消費者としての女性を扱った報告を行い、橘誠は20世紀初めのモンゴルの情勢に関して論文を発表、また広川佐保は奉天でのモンゴル語雑誌の刊行や日本からの移民について報告するなど、露中・中蒙それぞれについて、新たな知見を得ることができた。これまでの研究集会や論文などの成果から、清代後半から現代にいたる移民の動きと現地での共生様態について、一貫した視野の中でとらえうることや、ロシア領に移住した中国人や朝鮮人、あるいはモンゴル地方での漢族とモンゴル族の関係の在り方、さらには中国東北部におけるロシア人や日本人社会など、辺境地域の多様な住民の共生の具体像が明らかになりつつある。とくに18世紀に始まる中国内地からの北方への移民の進展が、東北アジア辺境部における多民族社会の形成に重要な役割を果たし、近代に入ってこれにロシア、日本、朝鮮半島等からの移動が相乗的に進行したことが明らかになりつつある。同時に、清代モンゴル人等の現地住民も活発な越境活動を行っており、停滞的にとらえられがちな辺境部での人の動きや、移民の活動が露・中・日などの地域諸国においてその法的位置づけの付与と法制整備を促し、また住民間の経済的共生の自生的構造を生み出していたことが明らかになってきた。これまでの研究において、個々の民族や国家内部での移民史理解を超えて、東北アジア辺境社会における移民の多民族的な様態や、個別民族の国家を超えた活動と意識の在り方が明らかになりつつある。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度は、「対話研究期」と位置付けており、これまでの文献による調査の成果を踏まえて、ロシア・中国・モンゴルなどの現地研究者の移民問題に関する理解を踏まえながら、問題理解の双方向化を目指したい。このために、9月にロシア・中国の研究者を招いた国際シンポジウムを開催して、議論を行う。 中蒙辺境については、主に歴史学の観点から、現在に連なる移民の動向の起点ともいうべき清代の漢人・モンゴル現地住民の移動様態について岡が、近代以後のモンゴル・東北部への移民について広川が、現地側の反応としてのモンゴルにおける自治運動などの政治的動向について橘が、当時の一次資料による研究を進める。本年度はモンゴル・中国の研究者との対話・交流を通じて、現地の視点を摂取していきたい。 露中に関しては、中国からロシアへの労働移民を歴史的視野の中でとらえつつ、堀江とサヴェリエフが、20世紀初めと現在を、ロシアの移民政策という側面から比較考察することにより、移民の移住先での生活の状況、国家の対応の共通性と相違点について検討を深め、さらに藤原によるハルビンなど中国領内のロシア人コミュニティーの研究との比較を行いたい。その上で、その前段階における中蒙辺境での住民移動の様態にかかわる理解との接続と一貫した理解の導出を試みる。とくに清朝の「封禁政策」下での人の移動の様態を再検討し、近代の移民の流れと18世紀ー19世紀の人の移動を連続的にとらえつつ、21世紀の同地域の移民の様態に関する通歴史的・現在的理解を得たい。 しかし移民の問題は、住民間の文化的相克を伴い、民族対立にもつながるデリケートな課題であることから、現地研究者の歴史認識を理解し、かつ相互の理解の共有が不可欠であることから、「対話研究期」としての次年度は、露・中・蒙の研究者との交流による研究の深化を目指したい。
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Research Products
(19 results)