2017 Fiscal Year Annual Research Report
現代中東の「ワタン(祖国)」的心性をめぐる表象文化の発展的研究
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15H03136
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
岡 真理 京都大学, 人間・環境学研究科, 教授 (30315965)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
宮下 遼 大阪大学, 言語文化研究科(言語社会専攻、日本語・日本文化専攻), 准教授 (00736069)
山本 薫 東京外国語大学, アジア・アフリカ言語文化研究所, 研究員 (10431967)
石川 清子 静岡文化芸術大学, 人文・社会学部, 教授 (30329528)
藤元 優子 大阪大学, 言語文化研究科(言語社会専攻、日本語・日本文化専攻), 教授 (40152590)
福田 義昭 大阪大学, 外国語学部, その他 (60390720)
鵜戸 聡 鹿児島大学, 法文教育学域法文学系, 准教授 (70713981)
田浪 亜央江 大阪経済法科大学, 公私立大学の部局等, 研究員 (70725184)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 中東 / 文学 / 文化 / 表象 / 祖国 |
Outline of Annual Research Achievements |
3年目の今年度、年2回の研究例会、複数回に及ぶ講演会やシンポジウムの開催、海外派遣、研究成果の刊行など、過去2年の活動成果がさまざまな形で開花した一年だった。 4月にはイラク人画家を招いて京都大学で講演会を、6月は東京大学でシンポジウム『〈文学〉からシリアを考える――独裁・“内戦”、そして希望――』を開催、小説、ドラマ、映画その他の表象を素材にシリアについて多角的な視点から論じた(その記録を3月に刊行した)。10月には東京と京都でシリア映画「カーキ色の記憶」の上映と講演会の開催(東京では監督を招いての講演)、11月には中東の作家たちの作品を中心に構成された岐阜県立美術館主催の「ディアスポラ・ナウ!~故郷(ワタン)をめぐる現代美術」展のオープニング・シンポジウムを同美術館と共催、メンバー2名が基調講演を行うなど、活動成果を積極的に社会に向けて発信した。 6月と1月に東京と京都で開催した研究例会にはメンバーほぼ全員が参加し、計8本の報告が行われ、地域的、時代的、またテーマ的にも多様な中東の文学・文化における「ワタン」表象が議論されると同時に、新たに、ムスリム児童文学や、中央アジアの高麗人のアート、タンザニアのスワヒリ語詩人など多様な地域、多様なジャンルのワタン表象が紹介され、多角的な観点から考察と分析がなされた。 さらに今年度はプロジェクトメンバー4名を資料・情報収集のため、それぞれトルコ、イラン、カタル、オマーンに派遣し、とりわけトルコ語クルド文学、英語のムスリム児童文学、オマーン文学など、日本においても、また世界的にも、未だほとんど学術的に未開拓な地域・分野の作家・研究者らと直接的な交流を持つことができた。2016年に開催したシンポジウム「現代世界‐中東・欧州‐を〈文学〉から考える』も、その内容の重要性に鑑み、今後の資料とすべく、その記録をまとめ、3月に刊行した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
まず年度開始当初に予定していた研究計画はほぼすべて順調にクリアーしている。 それに加えて今年度は、本プロジェクトのテーマでもある「ワタン」表象と関わる、内戦や独裁、ディアスポラをテーマとした映画、演劇、現代アートの作品を創作する中東の作家たち(映画監督、演出家、アーティスト)の来日が相次ぎ、日本にいながらにして、それらの作家たちと交流し、本プロジェクトの研究活動の一環として、彼らを招いての講演会やシンポジウムを複数回、開催することができた(当初の計画では東京と京都でシンポジウムを2回開催するだけだった)。 これらの作家たちが今、日本に招聘された背景には、彼らが作品を通して描いている「ワタン」なるものをめぐる問題意識(本プロジェクトのテーマである)の重要性が日本社会でも広く共有されるようになりつつあるという事実があるが、同時に、岐阜県立美術館の「ディアスポラ・ナウ!」展のサブタイトルに「ワタン」の語が見られるように、本プロジェクトのこれまでの取り組みとその研究成果の社会的フィードバック(ワタンをテーマとした講演会やシンポジウムの開催、基礎資料としての文学選やリブレットの刊行)が、これらの問題への社会的関心の醸成に寄与していることが分かる。 さらに、こうしたシンポジウムや講演会が、時機を逸することなく開催できたのも、本プロジェクトの研究活動を通じて形成された中東文学の専門研究者のネットワークによるものである。人文学的研究の「成果」が目に見える形で現れるには時間がかかるが、本プロジェクトの活動全般が活性化しているおかげで、研究活動とその社会還元のあいだに、こうしたポジティヴな循環が短期間で生まれていることは予想外の嬉しい「成果」である。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度となる来年度は、三年間の研究活動の総括とその公表がメインの活動になる。 まず、6月に2日間の総括シンポを開催し、プロジェクト・メンバー全員参加による研究発表と討議をおこない、その成果を報告書にまとめ年度内に刊行する予定である。 また、7月にセヴィリヤで開催される世界中東学会の大会にメンバー6名を派遣し、これまでの研究成果を英語で発表する。 さらに、本プロジェクト・メンバーによって3年間にわたり毎日新聞に連載し、この3月で終了した『世界文学ナビ 中東編』に加筆して刊行し、今後の研究活動のための共通資料とする。 また、本プロジェクトの成果を基盤に、「ワタン」を現代世界を読み解く鍵概念として、今後は中東イスラーム以外の諸社会における「ワタン」表象をも視野に入れ、よりグローバルな観点からの研究も同時に進めていきたい。
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Research Products
(30 results)