2015 Fiscal Year Annual Research Report
ヴィシュヌ教からシヴァ教へ―インド中世の始まりにおける宗教文化の転回―
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15H03156
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
横地 優子 京都大学, 文学研究科, 教授 (30230650)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | ヒンドゥー教 / 神話研究 / 文献学 / 国際共同研究 / 印度哲学 / 南アジア史 / サンスクリット文献 |
Outline of Annual Research Achievements |
1. 本課題の中核部分である神話・神話生成研究のうち、国際共同研究となるスカンダプラーナ第4巻の校訂研究に関しては、第87章までの校訂とシノプシスの作成を終え、9月にライデン大学にて、3月に京都大学において集中的な検討会を行った。そのうち、70-71, 75-79章については、改訂とその後の再検討が必要であり、28年度に行うことになった。また9月の検討会の際に、スカンダプラーナにおけるシヴァ神話体系内のヴィシュヌ神話に関する研究報告を行い討議した結果、ヴィシュヌ神話の体系化の過程に関するより詳細な検討が必要となり、現在研究を継続中である。 2. 関連遺跡調査に関しては、8月に南インドのパッラヴァ期の遺跡調査に招聘され、北インドの事例と比較する貴重な経験を得ることができた。特にマハーバリプラム遺跡は、ヴィシュヌ教からシヴァ教へのパッラヴァ朝の宗教政策の変化を示していることが最近の論考において指摘されており、その論者たちと意見交換をするとともに、現地にてその論拠を確認することができた。また、1月にはパーシュパタ派の伝播経路をたどる合同調査を行った。調査結果の分析は28年度に行う予定であり、その成果を中心として3月に開催されるアメリカ東洋学会にてパーシュパタ派に関する特別パネルを企画中である。 3. 「初期ヨーガ・サーンキヤ史の再検討」については、7月に研究会をたちあげ、12月に第2回研究会を開催した。12月の研究会では、パーシュパタ・ヨーガ儀規第1章、ヨーガ・ヤージュナヴァルキャ第1章、パータンジャラ・ヨーガ・ヴィヴァラナ4.13-14について各担当者が新たに校訂テキストを作成し、それをもとに討議を行った。いずれも新資料または新たな写本を使っての再校訂であり、具体的な成果をあげるにはまだ時間がかかるが、従来の初期ヨーガ史を見直すことができる見通しをもっている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1. スカンダプラーナ第4巻の校訂研究に関しては、計画以上に順調に進んでいる。ライデン大学のビショップ教授のプロジェクトとの協力関係も順調であり、3月には共同研究の研究集会をはじめて京都にて開催することができた。またこの共同研究の一環として、同文献の一部を素材とする3人の院生(ライデン大学、ハンブルグ大学、ソルボンヌ大学)の博士論文の研究指導に関わっており、若手研究者の育成にも効果をあげている。同文献を主材料とする神話の語りの研究は、論文として成果をまとめるのに多少手間取って入るが、28年秋のライデン大学での研究集会までには完了する見込みである。 2. 関連遺跡の合同調査については、計画通りの調査を1月に行った。また8月には南インド中世遺跡の合同調査に招待され、予定外の経験を得ることができただけではなく、計画外の中世南インドにおけるヴィシュヌ教とシヴァ教の関係も視野に入れられる可能性ができた。 3. 初期ヨーガ・サーンキヤ史の再検討に関しても初年度として順調な滑り出しであり、この副課題の中核となるシヴァ教パーシュパタ派ヨーガ儀規研究、ヴィシュヌ教ヴァイカーナサ派と関わる可能性があるヨーガ・ヤージュナヴァルキャ研究、パータンジャラ・ヨーガの複註であるヴィヴァラナ研究の3つを、研究代表者と各研究協力者のもとに開始した。今後は徐々に範囲を広げていく予定である。 4. 28年度から本格的に開始することを計画していた碑文研究については、海外・国内ともに研究協力はすでにとりつけているが、十分な準備をするための経費と時間が確保できなかった。ただし、この部分の遅れが計画全体に支障を及ぼすことはない。
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Strategy for Future Research Activity |
1. スカンダプラーナ校訂研究については、28年度中に第4巻に含まれる第95章までのすべての章の校訂とシノプシス作成を完了する。29年度にボードリアン図書館(オックスフォード大学)にて原写本等との最終校合を行い最終校を完成するともに、序章の共同執筆を行い、30年春に出版する計画である。並行して、研究代表者の担当研究として、初期のシヴァ教とヴィシュヌ教それぞれのプラーナ文献の神話体系の比較を行う。その成果を含め、現在の国際共同研究の成果報告のために、29年8月に開催される国際叙事詩・プラーナ学会において、ライデン大学のビショップ教授と合同で「スカンダプラーナにおける神話生成」のパネを企画している。 2. 関連遺跡調査に関しては、エローラ等のいくつかの候補地について28年度と29年度に現地調査を単独または合同で行う計画であるが、具体的な日程などは未定である。27年度の合同調査に関しては、29年3月のアメリカ東洋学会において、合同調査メンバーによって企画中のパーシュパタ派に関する特別パネルのおいて成果報告を行う予定である。 3. 「初期ヨーガ・サーンキヤ史再検討」については、28年度は27年度の活動を継続し、年に2回、校訂テキストの討議を中心としたワークショップ形式の研究会を開催するが、同時に参加者、扱う分野の枠を広げ、ヴェーダ文化や仏教におけるヨーガ、初期サーンキヤ史にも取り組む予定である。またヴィヴァラナの新たな校訂テキストの集中討論会も計画している。研究代表者がとりくむパーシュパタ・ヨーガ儀規全10章については、今後ビショップ教授と共同で校訂・翻訳・研究を行うことになり、その最初の成果を9月にSOAS(ロンドン)で開催されるヨーガ・ワークショップにて共同で報告する。 3. 関連碑文研究については、28年度も準備期間とし、29年度以降に本格的な研究に取り組む。
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Research Products
(15 results)