2015 Fiscal Year Annual Research Report
幕末近代の商家が伝えた文化財の総合調査:貝塚廣海惣太郎家コレクション
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15H03172
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Research Institution | Kyoto National Museum |
Principal Investigator |
永島 明子 独立行政法人国立文化財機構京都国立博物館, その他部局等, 主任研究員 (90321554)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 文化財 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は述べ109日間、学生アルバイトや美術輸送会社の作業員を含めた述べ393人を動員し、陶磁器110件の調査と約1100カットのメモ撮影が実施され、漆工、木竹工389件の調査と3020カットのメモ撮影が実施された。絵画、書跡、歴史資料、考古の調査も数点ずつ行われた。このうち、絵画3件、陶磁201件(前年度調査分も含む)、漆工・木竹工127件、考古5件、歴史資料8件の計344件の収蔵品と、京都国立博物館の教育事業や茶会等のイベントで用いる147件の備品が同館へ寄贈された。 これまでの調査を通じ、当家の歴代当主が、同時代の画家や工芸家のパトロンの役割を担ったようすが窺われ、特に四代惣太郎は、明治時代後半から大正期に、表千家を支える地方数寄者のひとりとして大量の茶道具を蓄積したことがわかっていたが、土蔵の調査が進むに連れ、そのことが一層はっきりとしてきた。また、当時の実業家の常として、ほかの大商人や華族(京都の公家を含む)と親戚づきあいがあり、贈答や形見分けなどで品物が行き来した形跡も見受けられた。 またたとえば、尼崎の紡績会社である日紡(ユニチカの前進)の創立者の一人である本咲家の娘が当家へ嫁ぐに際して持参した蒔絵の婚礼調度などが複数の土蔵にまたがって保管されていたことがわかり、同じく複数の土蔵に分蔵されていた一世代前の婚礼調度と比較することによって、明治時代までは江戸時代の調度と変わらなかった構成が、大正時代には新しい生活様式を反映した構成に変化することを観察できた。そして、終戦直後に当家に嫁いだ花嫁は道具を持たされこともなかった事実を並べると、大きな商家の江戸時代から第二次大戦の敗戦までの生活文化の変遷の一端を読み取ることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
申請時の研究計画に沿って調査が進められており、未調査エリアの物量も把握されつつある。ただし、複数のプロジェクトを兼務する限られた人数の研究員によって取り組んでいる都合上、調査が行われなかった分野もあり、本年度から確実に進められるよう担当研究員と協力していきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度もこれまでどおり計画に沿って調査を進めると同時に、当館に寄贈された作品については、将来の展覧会図録にも用いることができるような美術撮影を行い、作品データを整備していく。来年度が終わるまでにすべての調査を終え、寄贈希望の品が博物館の収蔵品として整備された暁には、寄贈顕彰を兼ねた展覧会を企画し、本プロジェクトの成果を広く一般市民に公開する予定である。研究を遂行する上での問題点があるとすれば、昨今、研究機関をまたぐ人事異動が増えているため、本件のような数年に及ぶプロジェクトにおいて一人の観察者による一貫した調査を進めにくい状況が生じている。異動を命じられる研究者には大きな負担であるが、綿密な引き継ぎに時間と労力を割き、この問題の克服に向けてみなで努力していきたい。
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