2017 Fiscal Year Annual Research Report
中国伝統演劇・芸能文化の域内・域外における、成立と伝播・変容に関する総合的研究
Project/Area Number |
15H03196
|
Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
福満 正博 明治大学, 経営学部, 専任教授 (60165313)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
古屋 昭弘 早稲田大学, 文学部学術院, 教授 (70165497)
加藤 徹 明治大学, 法学部, 専任教授 (80253029)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | 詩賛系仮面劇 / 元雑劇「梧桐雨」 / マックスウェーバーの儒教観 / ディオニソス的要素 / 薛仁貴征東伝 / 文革後の革命模範京劇 / 漢詩の歌い方 / 京劇の動態と課題 |
Outline of Annual Research Achievements |
論文、福満正博:①「マックスウェーバーの儒教観初探」、ギリシア演劇の成立の契機として、ニーチェはディオニソス的要素を取り上げた。著名な社会学者マックスウェーバーは『儒教と道教』の中で、中国思想にディオニソス的要素が欠けていることを指摘していることを示した。②「元雑劇「梧桐雨」の校勘」では、「梧桐雨」劇の各版本の校勘を行った。選集としては『盛世新声』が、総集としては『改定元賢伝奇』が重要であることを示した。しかも「梧桐雨」は、口頭で伝承された可能性を明らかにした。 国際学会、福満正博:「第6回中国小説戯曲国際学会」で、「関於中国安徽省池州市的詩賛体仮面劇貴池本《薛仁貴征東伝》」を発表した。この発表は、楽曲系の作品は、戯曲や語り物となり、詩賛系の作品は語り物であると考えられてきたことに、補足するものであった。詩賛系の作品にも、演劇があること、また詩賛系の仮面劇があることを示した。
論文、加藤徹:①「漢詩賞玩と中国伝来音楽 日本人は漢詩をどう歌ってきたか」 (『明治大学教養論集』通巻525号、2017年9月30日発行、pp.81-101)、中国の文学と音楽の域外伝播の特徴を、近世・近代日本の漢詩の歌い方を実例をあげて論じた。②「日本における京劇の動態と課題 2017」(明治大学大学院教養デザイン研究科紀要『いすみあ』10号,2018年3月31日,pp.221-261)2017年の日本における京劇公演・関連イベントを網羅的に取り上げ、中国芸能の域外伝播のメカニズムと課題を論じた。③「文革後の革命模範京劇 ―伝統京劇との連続性―」(愛知大学現代中国学会編『中国21 Vol.48』、2018月3月30日刊、pp.193-206)現代中国における「伝統」の特異性を論じた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
福満は、平成29年度の計画では「劉文龍」劇と「薛仁貴」劇の現地調査・資料収集を行い、文研研究を行うということとなっていた。「薛仁貴劇」については、現地調査・資料収集を行い、文研研究をして、国際学会で発表をした。しかし、「劉文龍」劇については、現地調査・資料収集を行ったが、文献研究まで至っていない。
加藤徹は、近世中国の芸能の日本への伝播について、特に京劇・崑劇と「明清楽」に着目して研究を進めた。文献資料のみならず、来日京劇公演の日本側の招へい団体や、来日公演を果たした中国の名優から聞き取り調査を行うとともに、中国芸能の域外伝播の特徴や課題についての論文を発表した。例えば、以下の2つの研究会は、実演者・実務者への聞き取り調査と、研究成果の社会還元を兼ねて行ったものである。 ①対談レクチャー「京劇来日公演の課題と展望-京劇・楊門女将を中心に」【日時】2017年6月3日(土) 13:30-15:30【会場】明治大学・駿河台キャンパス リバティタワー6階 1065教室 長年、京劇来日公演の実務・演出を手掛けてきた津田忠彦氏(NPO京劇中心 代表)らを招き、政治・経済・文化的な側面から見た京劇招へい事業の現状と課題について貴重な話を伺った。その成果の一部は加藤の論文「日本における京劇の動態と課題 2017」で活用した。②明治大学東アジア文化研究所(所長:福満正博教授)主催 学術公開講座「能楽と崑劇と京劇 名優たちが語る東洋演劇の奥深さ」【日時】2017年12月18日(月) 18:30-20:30、【会場】明治大学リバティホール、基調講演 谷好好(崑劇女優、上海崑劇団団長)、中国の崑劇の名優や日本の能楽の名優など、日中両国の伝統演劇の俳優も多数参加した。
|
Strategy for Future Research Activity |
福満の分:これまで「劉文龍」については、①南山劉氏村本、②東山呉氏村本、③縞渓曹氏村本、④西華姚氏村本、⑤風火劉氏村本、⑥庵門劉氏村本などを収集してきた。これらをもとに、 本年度は、「劉文龍」の文献研究を行いその成果を発表したい。また、中国演劇史の中で、目連劇は最古のものである。中国演劇の歴史を考える際欠くことのできない作品である。また目連劇の現存する最古の版本である高石山房本は、安徽省貴池の高石で出版されたものである。目連戯の発展を考察する際にも、安徽省の貴池は重要な関連性を有している。目連劇が、中国演劇史の中で果たした役割や、安徽省貴池の地方性と目連劇との関連などについても、考察を進めていくつもりである。
加藤徹の分:中国芸能の域外伝播の実例として、京劇や明清楽などの日本への伝播を研究してきた。中国芸能の域外伝播には、中国語の言語的特徴や文芸作品の思想的背景など文化的な要因だけでなく、政治的・経済的な要因も重要であることがわかってきた。特に近代以降は、日本や中国における民衆レベルでのナショナリズムが、中国芸能の域外伝播に正と負の多大の影響を与えてきた。今後は、近代日本の明清楽や詩吟などクレオール的な芸能についての調査研究をさらに深め、また、中国芸能の域外伝播の構造的な特徴について、政治的・経済的側面からも考察と研究を進めたい。
|
Research Products
(6 results)