2015 Fiscal Year Annual Research Report
チベット牧畜民の生活知の研究とそれに基づく牧畜マルチメディア辞典の編纂
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15H03203
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Research Institution | Tokyo University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
星 泉 東京外国語大学, アジア・アフリカ言語文化研究所, 教授 (80292994)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
平田 昌弘 帯広畜産大学, 畜産学部, 准教授 (30396337)
海老原 志穂 東京外国語大学, アジア・アフリカ言語文化研究所, 研究員 (30511266)
別所 裕介 広島大学, 国際協力研究科, 助教 (40585650)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | チベット / チベット語 / 牧畜 / 辞典編纂 / 生活知 |
Outline of Annual Research Achievements |
2015年度に実施した現地調査および研究により、青海チベットにおける牧畜民の生活知の様々な面を明らかにすることができた。具体的に述べると、まず、ヤクを中心とする家畜の認識語彙の調査結果を「年齢・雌雄・役割、毛色・角の有無、模様、大きさ、性格」といった観点から体系的にまとめ、その結果を国際学会等で発表した。また、乳文化については、牧畜専業か半農半牧かにかかわらず同じ乳加工技術が広く用いられていることが明らかになり、詳細を論文として発表した。さらに搾乳をはじめ、乳製品の加工、およびそれらに関わる儀礼の詳細なデータを記録することができた。また、放牧地や家畜の管理、肉の加工、食生活、テントやかまどに関する語彙、糞・毛・皮に関する語彙についても調査・記録が進んだ。宗教儀礼については、特に日常生活に関わりの深い儀礼を中心に記録を進め、家畜の放生や山神信仰から呪術に至るまで、多岐にわたる語彙を記録した。調査地の言語の音声特徴を明らかにするための言語調査も行なった。 記録した単語は構築した共同編集用のデータベース(非公開)に蓄積し、整理を進めた。辞典の収録項目を概ね確定している。また、現地調査の結果をもとに雑誌『チベット文学と映画制作の現在 SERNYA』vol. 3において「牧畜民の暮らしと文化」という巻頭特集を組み、上記の点から重要なものをピックアップして一般向けの記事を執筆した。この記事の内容は辞典の一部となる予定である。 現地調査の結果を牧畜民の生活知のあり方をイラストや映像の形でも記録した。特に映像は現地の若手映像制作者や大学院生との協働により、牧畜民の暮らしを撮影し、100分程度の映像に編集し、記録映像としてまとめた。映像の公開に関しては現地の協力者と協議を行い、映像の流布に関する協力者の心情を配慮し、辞典DVDへの収録は見送ることとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
(1) 現地調査を予定どおり2回実施し、牧畜に関する日常語彙を2,000語弱収集することができた。調査・収集した単語・画像・動画・音声を集約的に管理するための共同編集用のウェブ・データベースを構築し、記述の精緻化を進めた。 (2) 現地の若手映像制作者との協働により、牧畜民の一日を映像に記録し、手仕事などの詳細を100分程度の映像にまとめることができた。また、イラストレーターとの協働により、特に女性の手仕事を中心としたイラストを制作することができた。 (3) 辞典の日本語版の組版を年度内に進める予定であったが、語彙調査の進捗を考慮し、1年遅らせることにした。その代わりに辞典項目の一部となる牧畜民の基本的な日常語彙を解説付きで執筆し、雑誌にイラスト付きで発表した。 (4) これまでの研究成果を2016年6月開催の国際チベット学会で発表するための準備を進め、本研究チームが主催するパネルセッションが採択された。 以上の通り、一部予定を変更したが、おおむね予定どおりに順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は『チベット牧畜文化辞典 (仮題)』の完成を目指して、データの集約、執筆を進め、2016年度末には簡易な評価版を制作し、専門家の意見を聞いたうえで修正を施し、最終年度に完成版を刊行する。申請時の計画では日本語版(日本で出版)とチベット語版(現地で出版)の両方を出版する予定であったが、現地研究者や出版社との意見交換により、現地での出版には翻訳の質とともに現地研究者の監修など、厳しい基準をクリアするために十分な準備期間が必要であることが明らかになったため、チベット語版は準備を進め、研究期間中には日本語版の公刊を目指すことにしたい。 辞典は共同編集用のウェブ・データベースからデータを抽出して、印刷物と電子辞典の両方の形に出力する予定であるので、その具体的な手法についても調査・研究を進めていく。 また、辞典には映像コンテンツ付きのDVDを添付する予定であったが、現地協力者の意見を尊重して取りやめることとした。代わりにイラストによる解説を充実させる方向で準備を進める。 研究成果は国内外での学会で発表するほか、公開ワークショップを企画し、公表する予定である。研究論文の投稿も積極的に進める。さらに研究成果の還元のため、「牧畜民の一日」映像の解説付き上映会、チベット牧畜について知る企画展などを実施していく。雑誌へのエッセイの寄稿なども可能な限り積極的に行う。
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Research Products
(29 results)