2015 Fiscal Year Annual Research Report
日本におけるアイルランド認識と植民地統治:アイルランドと朝鮮からの視点を交えて
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15H03234
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Research Institution | Musashino University |
Principal Investigator |
齋藤 英里 武蔵野大学, 経済学部, 教授 (50248663)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
加藤 道也 大阪産業大学, 経済学部, 教授 (80389973)
崎山 直樹 千葉大学, 普遍教育センター, 講師 (10513088)
山倉 和紀 日本大学, 商学部, 准教授 (10267007)
日浦 渉 東北大学, 高度教養教育・学生支援機構, 専門研究員 (40400197) [Withdrawn]
後藤 浩子 法政大学, 経済学部, 教授 (40328901)
高神 信一 大阪産業大学, 経済学部, 教授 (30268239)
森 ありさ 日本大学, 文理学部, 教授 (80349943)
愼 蒼宇 法政大学, 社会学部, 准教授 (80468222)
伊藤 俊介 福島大学, 経済経営学類, 准教授 (10737878)
小川原 宏幸 同志社大学, グローバル地域文化学部, 准教授 (10609465)
尹 慧瑛 同志社大学, グローバル地域文化学部, 准教授 (70376838)
山田 朋美 津田塾大学, 学芸学部, 助教 (80734467)
P・A・C オコーノ 武蔵野大学, 人間科学部, 教授 (20308034)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 比較史 / 植民論 / アイルランド / 朝鮮 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、科研プロジェクトメンバーによる研究会を計3回開催した。 第1回研究会では、本プロジェクトの問題設定の説明と各研究分担者の研究課題が研究組織全体の中でどのような位置と役割をもっているのかについての確認が行われた。まず、研究代表者の齋藤が「愛蘭・朝鮮類比論」再考-今後の研究のために-」というテーマで、類比論の出発点となった矢内原忠雄前後の日本における類比論の展開を説明した。次に、崎山がアイルランド・朝鮮比較研究担当者間の分担調整のための論点を提示した。 第2回研究会では、併合期のアイルランドと朝鮮における「総督府と官僚制」を中心とする政治制度と構造の比較研究が行われた。小川原が朝鮮総督府の組織変遷と官僚採用の実態について、加藤が日本の植民地官僚の経歴・活動・植民政策学について報告した。これと比較検討するために、高神が19世紀以降のアイルランド総督府の構造を説明した。以上の報告から、英愛双方向での移民を伴いつつ数世紀をかけて形成された議会主権の下でのアイルランドの統治構造と、本国の行政機構から独立した朝鮮の武官総督制の決定的な違いが明らかになった。 第3回研究会では山倉が19世紀前半の、合邦直後のアイルランドの財政管理と国庫統合までの過程を報告した。1800年のAct of Unionで先送りされた通商、財政(国庫)、通貨(為替)の経済分野の統合に関して、Act of Unionが規定した国庫統合の条件と英愛側の統合への対応が分析された。また後藤は19世紀初頭から大飢饉前までのアイルランド土地問題の発端について報告した。当初、財政と土地制度については朝鮮との比較研究を予定していなかったが、この分野でも実施する方向で分担を調整することになった。 以上、今年度は主にアイルランド史と朝鮮史研究者双方が互いの知識を共有し論点をすり合わせる作業を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本プロジェクト第Ⅰ部「植民地統治思想におけるアイルランド―朝鮮類比論分析」と第Ⅱ部「植民地統治政策におけるアイルランド―朝鮮比較研究」は主に比較研究という手法をとり、日本における植民地化政策に伴って形成されてきた「愛蘭・朝鮮類比論」を実際の植民地政策の比較によって実証的に吟味することを目指している。それゆえ、アイルランド史と朝鮮・韓国史の研究者がまずは互いの知識・情報を交換することが必要である。本年度の研究会では主にこのすり合わせ作業を行った。第Ⅲ部「19、20世紀アイルランドにおける自治、貿易、土地制度問題の実相と日本での参照」は、当初、合邦後の通貨、金融、行財政機構の統合過程と19世紀後半の自治政策での分離を2名の分担研究で行う予定だったが、分離を担当していた1名が退職したため、合邦過程を日韓併合過程と比較研究する方向へと変更することでカバーした。土地制度問題については、先行研究のサーヴェイがなされ、大飢饉以降の土地制度問題と自作農創設運動の研究に比べ手薄な大飢饉以前の時期に焦点が絞られた。第Ⅳ部「脱植民地化過程における文化政策:エスニシティ複数性への対応比較」では、言語政策の分担研究においてアイルランド語復興政策の史料収集と台湾での言語教育の雑誌論文収集を行い、ナショナルアイデンティティ分析では現代アイルランドの移民受け入れとシティズンシップ規定変更の分析が行われた。第Ⅴ部「英語圏とアイルランド出身者による日本・東アジア認識」では、大英図書館、Queen’s University等においてJoseph Henry Longford やアイルランド出身の駐日英国外交官関連の史料を収集し、また、Public Record Office of Northern IrelandにてWilkinson Parpers等の収集を行ったので、現在それら史料の読解作業段階に入った。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は、12月に日本アイルランド協会主催アイルランド研究年次大会において、アイルランド外務省後援でイースター蜂起100年記念行事の一環として「The Easter Rising in East Asia」と題するシンポジウムを開催する。このシンポでは、分担研究者であるオコーノが近日中に公刊予定の著作The influence of the Easter Rising on political developments in East Asiaをもとにイースター蜂起の東アジアにおける影響を当時の英字新聞をもとに報告し、慎が同蜂起の朝鮮に与えた影響を報告する予定である。さらに、三人目の報告者としてベルファストのクィーンズ大学から中国史研究者のAglaia De Angeli教授を招き、中国における影響を報告して頂くことになっている。このシンポでは、アイルランドが東アジアの民族独立運動に与えた影響を明らかにしたい。 研究会は東京にて全4回ほど開催する。まずは昨年度に実施できなかった第Ⅳ部と第Ⅴ部についての研究報告を予定している。その後、昨年度の研究会で見出されたアイルランドと朝鮮の植民地政策の違いについてさらに分析し、また、日本の植民政策学における「愛蘭・朝鮮類比論」を朝鮮史研究の視点から分析・評価する。年度初めに、各論点に対するアイルランド史―朝鮮史、もしくは植民政策学―朝鮮史といった形で二人一組で担当を決定し、年度末までに共同論文の形で公刊することを目指す。 また、今年度は、まだ未開設の本プロジェクトの研究成果発表用ホームページを立ち上げる。さらに、メンバーがアイルランド史と朝鮮・韓国史の研究リソースを共有する必要があるので、ホームページにそのようなニーズに対応する機能ももたせる。
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Research Products
(6 results)