2016 Fiscal Year Annual Research Report
日本におけるアイルランド認識と植民地統治:アイルランドと朝鮮からの視点を交えて
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15H03234
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Research Institution | Musashino University |
Principal Investigator |
齋藤 英里 武蔵野大学, 経済学部, 教授 (50248663)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
山倉 和紀 日本大学, 商学部, 准教授 (10267007)
崎山 直樹 千葉大学, 国際教養学部, 講師 (10513088)
小川原 宏幸 同志社大学, グローバル地域文化学部, 准教授 (10609465)
伊藤 俊介 福島大学, 経済経営学類, 准教授 (10737878)
P・A・C オコーノ 武蔵野大学, 人間科学部, 教授 (20308034)
高神 信一 大阪産業大学, 経済学部, 教授 (30268239)
後藤 浩子 法政大学, 経済学部, 教授 (40328901)
尹 慧瑛 同志社大学, グローバル地域文化学部, 准教授 (70376838)
森 ありさ 日本大学, 文理学部, 教授 (80349943)
加藤 道也 大阪産業大学, 経済学部, 教授 (80389973)
愼 蒼宇 法政大学, 社会学部, 准教授 (80468222)
山田 朋美 工学院大学, 国際キャリア教育部門, 助教 (80734467)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 比較史 / 植民論 / アイルランド / 朝鮮 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、北アイルランド、ベルファストのクィーンズ大学より、研究協力者アグレイア・デ=アンジェリ博士を招き、12月9日に国際シンポジウムを行った。アイルランドでの1916年イースター蜂起と1919年朝鮮の3.1独立運動、そして中国の5.4運動が起こった第一次世界大戦期に焦点をあて、アイルランドと東アジアの民族運動がどのように影響しているのかをDe Angeli “A Republic for China and Ireland: a New Beginning”, Shin “The Easter Rising and Korean Nationalism: Thought, Sentiment and Movements”, O’Connor “Britain’s Korea, Japan’s Ireland? :The East on Easter, 1916, and the Aftermath of the Rising”の3本の報告によって分析した。 研究会は3回開催した。通算第4回では、研究組織編制の第5部「アイルランド出身者の日本・アジア認識の分析」担当者廣野によるアイルランド出身の外交官J.H.ロングフォードのアイルランド観と朝鮮観の分析、並びにオコーノによる、イースター蜂起の東アジアのジャーナリズムへの反映と影響の分析が報告された。第5回研究会では、第2部「植民地統治政策におけるアイルランド-朝鮮比較」の担当者伊藤が、植民地期朝鮮への日本人移住者について報告し、それに基づいてアイルランドへのブリテンからの移住者や移住政策の違いを分析した。また、シンポの準備としてメンバーが認識を共有するために、イースター蜂起について森が報告した。第6回では、慎のシンポジウムの報告概要の発表と他の2報告との論点のすり合わせ、並びに第5部担当者の山田による、朝鮮独立運動を支援したアイリッシュ実業家J.Lショーの逮捕事件についての報告が行なわれた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本プロジェクトの第1部「植民地統治思想におけるアイルランド-朝鮮類比論分析」では、齋藤が「矢内原忠雄のアイルランド認識と複合国家としてのブリテン像」を矢内原の1923年の英帝国会議に関するノートや1926年のアイルランド植民の講義素案ノートを基に分析した。また、慎の研究は、朝鮮の知識人が連合王国という複合国家を、日本と朝鮮のあるべき関係を考察する際に選択肢の一つに入れていたことを明らかにした。こうして、アイルランドと朝鮮の類比的連関の形成が次第に具体化されてきている。さらに崎山は会津若松市立図書館への柴四朗寄贈洋書の目録調査を行い、明治期日本へのアイルランドや植民地に関する知の流入のプロセスを具体化した。さらに第2部「植民地統治政策におけるアイルランド-朝鮮比較研究」と第5部「アイルランド出身者の日本・アジア認識の分析」に関しては、本年度の研究会とシンポジウムにおいて、第一世界大戦前後の時期のアイルランド、中国、朝鮮での政治運動の影響関係がかなり明らかになった。本年度の研究会は、総じて分析対象が第一世界大戦前後という同時代のものであったため、日本、ブリテン、朝鮮、アイルランドの相互連関をある程度掴むことができ、シンポジウムでの議論の下地となり得た。さらに朝鮮の開化派官僚の日本観の分析や、J.H.ロングフォードの子孫からの関係資料入手や資料発掘も進展している。第3部「19世紀アイルランドの自治・貿易・土地制度問題の実相」では、1826年の英愛の通貨統合に至る過程でジョン・フォスターが盛り込んだアクト・オブ・ユニオンの財政条項がどのような意味をもったのかが分析された。 以上のように、本年度は、かなりの数の具体的な史実が新たに明らかにされ、それを通じてアイルランドと朝鮮、さらには中国の相互影響関係や類似性を掴むことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度の国際シンポジウムでは、脱植民地化プロセスは完了しておらず、朝鮮もアイルランドも民族の分断が継続していることと、そして、EUのような複合国家組織には―「解決」ではないにせよ―分断の一定の緩和効果があったが、UKのEU離脱によって、アイルランドにおける分断は再び顕在化するであろうことが指摘された。また、朝鮮のナショナリズムの中には、日本-朝鮮関係を連合王国内のイングランド―アイルランド関係ではなく、イングランド―スコットランド関係に近づけようとする思想の存在も昨年度の研究によって明らかになった。国際シンポジウムの結果、北アイルランドのクィーンズ大学から研究援助のオファーを受けたこともあり、最終年度では、第1,2,4,5部担当者が民族分断という視点からアイルランドと朝鮮の植民地化と脱植民地化プロセスの比較研究を行い、それをクィーンズ大学のセミナーで発表し、当地の歴史研究者と意見交換する。 また、第3部担当者は、連合王国内での19世紀前半のアイルランドの制度的な実相の研究に基づき、そこでイングランド―アイルランド関係が孕んでいた問題を析出し、第1部担当者は朝鮮併合以後の日朝において複合国家論がどう評価されたかを分析し、その結果を日本アイルランド協会年次大会におけるシンポジウムで相互に発表することで、当時のアイルランド認識が東アジアにどのような影響を与えたかを浮き彫りにする。 以上のようなベルファストでの共同セミナーと日本でのシンポジウム開催に向けて、準備のための研究会を3回ほど東京で開催する。 なお、分担研究の個々の成果や国際シンポジウムでの研究報告と議論を公表する場としてホームページを早急に設置し、分担研究者の研究成果を論文としてホームページ上に掲載することで集約し、5部門に分かれた個々の研究成果の相互連関が明示され、総合的に理解されるようにする。
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Research Products
(5 results)