2017 Fiscal Year Annual Research Report
Boundary Demarcation and Local Politics in Modern and Contemporary Alpine-Adriatic Borderlands
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15H03255
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Research Institution | Tokyo University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
小田原 琳 東京外国語大学, 総合国際学研究院, 講師 (70466910)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
鈴木 珠美 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 研究員 (20641236)
藤井 欣子 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 研究員 (30643168)
秦泉寺 友紀 和洋女子大学, その他部局等, 准教授 (60512192)
古川 高子 東京外国語大学, 世界文化言語社会研究センター, 助教 (90463926)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | ボーダーランド / 境界 / 記憶 / ナショナリズム |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、19~20世紀ヨーロッパでの国境設定・再編にともなって創出された境界地域(ボーダーランド)であるイタリア・オーストリア・スロヴェニア等が国境を接するアルペン-アドリア地域における地域住民の経験と、アイデンティティをめぐる論理、記憶の継承を明らかにすることを目的としている。第三年度である29年度は、メンバー各自の研究課題を進める他、3回の研究会と、2名による海外調査、1回の国際ワークショップを開催した。 第一回研究会(2017年5月)では、前年度の成果を共有するとともに、メンバー各自の研究の進捗状況を報告した。第二回研究会(2017年8月)では、研究分担者の鈴木が、第二次世界大戦前後の南ティロールにおける国籍選択と移住に関する報告を行った。これに対し、ファシズム、ナチズム体制下の人口配置との関連などについて議論が行われた。第三回研究会(2017年11月)では、Tara Zahra "Imagined Noncommunities"(Slavic Review, 2010)を題材に、本科研課題の基礎および出発点となったnational indifference理論につき、最新の研究成果との比較検討を交えて議論した。とくに、分析概念としてのindifferenceはnationalな面にとどまらず、political indifference等へも拡張可能だとするZahraの展望につき、検証の手段や個別研究テーマに基づく実例について検討を加えた。 2018年2月には、ボルート・クラビヤン(European University Institute)を招聘し、「境界地域(ボーダーランド)における歴史と記憶--アルペン・アドリア地域を中心に」と題する国際ワークショップを開催した。 研究会・国際ワークショップの成果をウェブサイトで公開した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度に海外で実施した国際ワークショップの際に関係を構築した研究者を招聘して国際ワークショップを行った。これにより、1)研究成果の一部を日本で還元できたと同時に、2)国内の関連分野の研究者をパネリストとして呼ぶことで、海外と日本の研究者ネットワークの継続と拡大、3)社会学、歴史学、文学、文化研究など多角的な視点から、ひとつの地域を論じたことで研究課題の深化が行われたことは大きな成果であった。ここから、最終年度である次年度、またそれ以降の持続的研究に大きな示唆を得ることができた。 分担者各自の研究課題も深められている。1)小田原(代表者)は、第一次大戦におけるイタリア北東部国境地域における紛争とジェンダーに関する研究を引き続き継続し、補助的な海外調査を行った。紛争とジェンダー研究は近年発展著しい分野であり、比較的視野を持ちつつ研究を進めた。2)鈴木(分担者)は海外調査を踏まえ、国際ワークショップでパネリストとして、議論に重要な貢献を行った。3)藤井(分担者)は研究成果の一部を刊行物として発表した。4)古川(分担者)はボーダーランドの視点からオーストリア近現代史の読み直しに取り組んだ。5)秦泉寺(分担者)は戦後イタリアにおけるネイション形成の現代的課題について、研究を進展させた。 研究成果はさまざまな媒体で公開された各メンバーの業績に反映されており、共同研究としての課題の共有もワークショップの開催等により着実に果たされているため、おおむね順調な進展であることは疑いない。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度である30年度は、各自の研究課題に一応のめどをつけ、また共同研究として、当初の課題にどのように答えることができたか、総括する。国民国家制度が極めて強固な基盤をつくりあげたヨーロッパにおいて、ボーダーランドにおいてはむしろ「ネイション帰属への無関心さ」が見られたという従来の議論に対して、共同研究を通じて、ネイションという制度の文化的な強度が見られると同時に、さまざまな読み替えなど実践的なズラしが見られたことが明らかになっている。記憶研究の成果なども取り入れつつ、主流の歴史叙述にボーダーランドの視点を不可欠なものとして取り入れることを提案したい。 以上を踏まえ、次年度は以下のように研究を推進する予定である。1)年3回程度の研究会を開催し、各自の研究のまとめ、および共同研究としての知見の形成に向けた議論を行う。2)総括ワークショップを行い、理論的成果の共有と残された課題の整理、持続的研究のための展望を共有する。総括ワークショップには中澤達哉(東欧近代史、早稲田大学)、鈴木鉄忠(北部アドリア海地域研究・ボーダーランド研究、共愛学園前橋国際大学)、木村護郎クリストフ(中東欧社会言語学、上智大学)を招聘し、アルペン-アドリア地域の特質について多角的に議論するとともに、地域性にとどまらない歴史学への理論的・実践的貢献を総括する予定である。3)藤井・古川(分担者)がオーストリア、ドイツで補助的な海外調査を実施。4)研究ネットワークの維持・拡大。5)ウェブ等での研究成果の公開に努める。
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Research Products
(17 results)