2015 Fiscal Year Annual Research Report
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15H03328
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
芹澤 成弘 大阪大学, 社会経済研究所, 教授 (90252717)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
青柳 真樹 大阪大学, 社会経済研究所, 教授 (50314430)
若山 琢磨 龍谷大学, 経済学部, 准教授 (80448654)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 非分割財 / 耐戦略性 / オークション / 経済実験 |
Outline of Annual Research Achievements |
選好定義域が非準線形な選好を含むことを仮定したオークション・モデルの研究は、消費者が非分割財を高々一つしか消費できないことを仮定していたので、応用範囲が限られていた。そこで、実現可能集合を消費者が非分割財を複数消費可能な構造にし、かつ選好定義域が非準線形な選好を含むオークション・モデルで、耐戦略性の他、効率性や個人合理性などの性質を持つ配分ルールを研究した。 実現可能集合を消費者が非分割財を複数消費可能な構造でも、非分割財を高々一つしか消費しようとしない選好の集合である「単一需要定義」では、ワルラス最小均衡価格ルールが、耐戦略性、効率性と個人合理性を満たす。そこで、単一需要定義より広い定義域で、同じ性質を満たすルールが存在するかどうかを研究した。特に、価格が十分に低ければ複数の非分割財を需要する「複数需要選好」に焦点をあてた。その結果、定義域が単一需要定義に加えて一つ以上のいかなる複数需要選好を含むならば、その定義域の上には、耐戦略性、効率性と個人合理性を満たすルールが存在し得ないことを証明した。 非分割財の価格が、入札者の所得やキャッシュ・バランスと比較してある程度高ければ、所得効果は無視できない。近年、周波数利用権や車両購入権の割り当てにオークションが応用されているが、そのようなオークションでは、非分割財に価格が家計所得の数年分や国家歳入にも匹敵するほど高くなることがある。そのようなオークションでは、選好が非準線形になり、単一需要定義より大きな定義域では、耐戦略性、効率性と個人合理性を満たすルールの設計が困難であることを、上記の結果は意味している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、メカニズム・デザイン理論により、多様なモデルにおいて非分割財の配分ルールを研究する。具体的には、(貨幣移転がない)非分割交換モデル、(貨幣移転がある)非分割交換モデル、労働者と企業などの多数対1のマッチング・モデルなどである。配分ルールの性質として、耐戦略性を中心に理論的に分析するが、現実に応用するために状況に応じた様々な仮定を設定した上で、効率性や公平性も可能な限り分析する。さらに、理論的分析結果を経済実験により検証し、理論と実験の結果に違いがある場合には、その原因を究明する。 研究実績の項で説明したように、現在までは、所得効果のあるオークション・モデル、すなわち貨幣移転がある非分割交換モデルを研究した。消費者が高々一つの財しか消費しない状況は現実には限られているので、このモデルの先行研究(Demange and Gale, 1985; Demange, Gale, and Sotomayor 1986; Saitoh and Serizawa, 2008; Sakai, 2012; Sakai, 2013; Adachi, 2014; Morimoto and Serizawa, 2015)の結果を、実現可能集合を消費者が非分割財を複数消費可能な構造にしたオークション・モデルで吟味することは、非常に重要である。そのような理論研究を行い、1年間で非常に明確な結論を得たことは、重要な進捗があったと言える。
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Strategy for Future Research Activity |
選好定義域が非準線形な選好を含むことを仮定したオークション・モデルの従来の研究は、耐戦略性と個人合理性に加えて効率性を満たすルールについて研究してきた。(Saitoh and Serizawa, 2008; Sakai, 2012; Sakai, 2013; Adachi, 2014; Morimoto and Serizawa, 2015)政府などの公共団体がオークションを行うときに、非分割財の効率的な配分が目的とされることが多いからである。しかし、一般に市民社会においては、効率性よりも、公平性が重視されることも多い。例えば、多くの国の憲法では、人々の間の公平性の実現がうたわれている。また、公的に所有されていた財が不公平に配分された場合、市民が強く反発することもある。 そのため、効率性よりも公平性を重視したオークション・ルールの研究も必要である。財配分ルールの代表的な公平性の条件として、「匿名性」がある。財配分ルールがもたらす人々の厚生レベルが、人々の名前には直接影響を受けないという条件である。財配分ルールの定式化より、人々の厚生レベルは必然的に人々の選好profileには依存する。したがって、「匿名性」は、人々の選好profileが置換されれば、厚生レベルも同様に置換されるという条件になる。事前的な公平性の条件であることから、無知のヴェールの公平性とも、解釈できる。耐戦略性と個人合理性に加えて、この匿名性という公平性の性質を満たすルールについて研究していく予定である。
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Research Products
(10 results)