2015 Fiscal Year Annual Research Report
顧客満足に向けたリーンな新製品開発:日本企業の潜在力評価
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15H03374
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
馬場 靖憲 東京大学, 先端科学技術研究センター, 教授 (80238229)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
柴田 友厚 東北大学, 経済学研究科, 教授 (10380205)
七丈 直弘 文部科学省科学技術・学術政策研究所, 科学技術予測センター, 上席研究官 (30323489) [Withdrawn]
柴山 創太郎 東京大学, 大学院薬学系研究科(薬学部), 特任准教授 (30609285)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | リーンスタートアップ / 顧客満足 / 新製品開発 / 日本企業 / GE / Fast Works |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、開発期間を従来の四分の一に短縮しリーンスタートアップによる「First Works」の成功例として高く評価されているGEヘルスケアの「歩き方のバランス評価器」プロジェクトを対象に、どのような企業の全社的経営、また、開発部門のマネジメントが日本企業によるリーンスタートアップへの取り組みを可能にするかという観点から、調査・分析を進めた。 その結果、経営トップのリーダーシップに加え、事業を担当する現場マネジメント、また、社内起業家として活動する開発担当者等、企業各層の活動のベクトルが同期化されることが必要であり、それを可能にする制度環境が不可欠となることが明らかになった。 具体的には、経営トップは当該企業のリーンスタートアップへのコミットメントを公的に表明する。事業の現場は開発担当者の新規事業に対するチャレンジを積極的に評価し、一定以上の成功確率があれば、その活動を許容する。事業の現場において、開発担当者は社内起業家として既存組織と独立した形で小規模にプロジェクトを立ち上げる。社内起業家は、当初からリーンスタートアップにおける実験を可能にする最小限の顧客を確保することを目指し、さらに、顧客からのフィードバックに迅速に対応し製品・サービスを高度化する。開発担当者が社内起業家として活動することを促進するために、表彰・社内研修への選抜という心理的報酬に加え、経営トップの認知によるプロモーションというインセンティブを供与することに加え、全社レベルで意思決定力・人間力・リーダーシップを重視する人事評価制度を採用し、あわせて社内の先行事例を積極的に紹介する等、アントレプレナー教育が徹底されていることが判明した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、GEの"Fast Works"(FW)の事例から、顧客とのフィードバックを最優先する同手法を活用するためには、開発においてどのようなチーム編成、工程管理、評価等が必要になるか、分析を進め、その結果、 FWは経営手法として、すべての製品に適用することが全社的に期待されているが、その導入を阻害する要因がそれぞれの製品、また、プロセスごとに個別に存在し、当然ながらその効果は大きく異なる。(ii) 成功したプロジェクトには、トップマネジメントからの後押し、チームの自己組織化、開発フェーズのオーバーラッピング、多様な学習、適切な管理、学習の組織的普及等が認められる。 結局のところ、成功要因には、今井、野中、竹内が発見した1980年代の日本企業の製品開発に関するベストプラクティスと共通する要因が多い (Imai, Nonaka, Takeuchi, 1985)。また、今井らの分析と大きく異なるのは、FWにおける製品プロトタイプは顧客に対して、その反応を確認するためのコンセプトとスペックを提供しており、顧客とのインターアクションを実現するためにプロトタイプを可視化する情報技術の導入が前提となっている点である(Baba,Y. and K. Nobeoka, 1998)。 以上の結果から、トップのリーダーシップの下、全社的な同意が取れた場合、日本企業によるFWの導入はプロジェクト・レベルのマネジメントに関しては、相対的に容易なことが推察できる。FWの中核は、顧客との不断のインターアクションに基づいた製品進化の促進であり、伝統的に顧客対応によって製品競争力を築き上げてきた日本企業にとって、FWとは本気でやればそれになりに出来る企業革新への取り組みであることが判明した。
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Strategy for Future Research Activity |
それでは、日本企業はGEが推進する"Fast works"から学ぶところはないのであろうか? GEは新技術の開発を担ってきた企業であり、「知の探索(Exploration)」に適した様々な企業特性を持っていた。顧客満足につながらない開発を削減するFWには「知の活用(Exploitation)」を志向する側面が強い。すなわち、GEはFWの全社的採用によってその組織を「両手使いの組織 (Ambidextrous organization)」にすることを目指している。 一方、本研究で実施した日本企業への聞き取り調査から、「知の活用」を効果的に行うことによりキャッチング・アップを成功裏に実現した日本企業が、一時期、中央研究所等で「知の探索」の本格化を試みるも、どのようにその組織を製品競争力と高収益率をもたらす「両手使いの組織」にするか、そのための道筋がみえていないことが明らかになった。何よりも、企業の「知の探索」を担当することを期待される本社コーポレート研究をどのようにマネージすれば良いか、研究マネジメントに関する指針についての共通認識は存在していない。さらに、日本全体で、また、各産業分野において、本社コーポレート研究にどのような資金がどのように投資され、どのような組織構造においてだれがどのようにプロジェクトの採用・中断等を決定しているか等、その運営体制に関する理論フレームに基づいた現状理解は十分とは言えない。 本研究は、今後、オライリー、タッシュマン等の先行研究 (O'Reilly and Tushman, 2004)等に基づき、日本企業が、どのように本社コーポレート研究によって、新規事業領域への進出と既存事業分野での競争力強化を実現するか、そのために有効な企業の研究戦略と研究組織・運用のあり方、また、研究評価等との関係を明らかにすることを目指す。
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Research Products
(1 results)