2017 Fiscal Year Annual Research Report
研究評価にもとづく選択的資源配分の政策効果と意図せざる結果に関する国際比較研究
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15H03407
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
佐藤 郁哉 同志社大学, 商学部, 教授 (00187171)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
川嶋 太津夫 大阪大学, 高等教育・入試研究開発センター, 教授 (20177679)
遠藤 貴宏 神戸大学, 経済経営研究所, 准教授 (20649321)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | インパクト / 研究評価 / 選択的資源配分 |
Outline of Annual Research Achievements |
2017年度は特に、2014年に英国で実施された研究評価事業であるReserach Excellence Framework(REF 2014)を踏まえた制度の改訂点とそれが大学機関の対応行動に与えた影響に焦点をあてて分析を進めた。あわせて、英国の研究評価制度を重要なモデルにしながらも独自の発展を遂げてきた豪州の評価制度である、Excellence in Research for Australia(ERA)を第3の検討対象事例として、聞き取りを資料調査による分析をおこなった。 REF 2014に関する第三者委員会による検討の結果は、2016年7月にいわゆる「Stern Review」として公表され、その結果を踏まえた次回のREF(REF 2021)における評価制度の大枠は2017年11月に示されることになった。その骨子となる評価対象となる研究者の幅の拡大と1人あたりの業績点数の柔軟化は、いずれも大学側での策略的対応を抑制することを主な目的としていたが、聞き取りや資料調査の結果は、それらの改訂が別種の策略的対応を生み出す可能性を示唆している。 豪州のERAについては、英国のREFとは対照的に公的補助金の選択的配分とはほぼ脱連結された評価制度が大学および研究者個人の対応行動ひいては研究の質に与える影響を中心にして検討を進めた。その結果明らかになってきたのは、豪州の場合には、補助金の獲得というよりは、むしろ評価結果が各種大学ランキングへの影響等を介して間接的に授業料収入(とりわけ留学生の授業料)に結びつくという点が大きな意味を持っていることが確認できた。 以上の知見は、今後日本で本格的な研究評価がおこなわれる場合の制度設計にとって大きな意味を持つと思われるだけでなく、日英豪の大学の収益モデルについて再考を迫るものだと言える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
英国に加えて豪州を比較対象事例として追加したことによって、選択的資源配分を前提とするタイプの研究評価制度(英国)だけでなく、研究評価の結果が直接的な公的研究補助金とは脱連結されている事例(豪州:ERAの結果による重み付けは2016年の予算配分からは完全に除外されることになった)における、高等教育機関および研究者個人の対応行動を明らかすることが出来たことは大きな収穫だったと言える。あわせて、国家からの補助金が削減されていく中で、英国および豪州において近年留学生による授業料収入が財務上きわめて重要な意味を持つこと、そしてまた、その授業料収入が結果として、内部補助(cross subsidy)の形で研究活動を支えているという事実が近年の各種レポートの検討から明らかになってきたことは、日本における今後の研究政策について考えていく上で大きな示唆を含むものだと言えるだろう。さらに、その留学生を含む教育活動の多くを担っているのが、雇用契約の上で研究活動を期待されていない教育専門のスタッフであるという点は、世界大学ランキングでの好成績の達成を掲げる高等教育政策の是非について疑問を投げかけるものである。以上の点において、本研究は、日本における高等教育政策の制度設計に関して多くの示唆を含むものと思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度である4年間の研究を通して得られた調査結果について様々な角度から検討を加え、またその研究成果をまとめた学術書の刊行を目指す。学術書における記述と分析の中心となるのは、日英それぞれの研究評価および選択的資源配分政策の経緯とそれが若手の研究者(ECR: Early Career Researcher)のキャリア展望と基本的な研究姿勢に対して与えてきた影響である。この点に関して特筆すべき点は、ジャーナル駆動型リサーチとでも呼ぶべき行動様式である。すなわち、選択的資源配分を前提とする研究評価事業の進展にともなって、どのような内容の研究をおこなうかという事よりも、「どのジャーナルに掲載できるか」という点が過度に協調されるようになってきたのである。本研究の集大成として刊行を予定している学術書においては、その種の道具主義的(instrumental)な研究姿勢が研究それ自体の質・水準に対してもたらす影響、とりわけ、主たる意図せざる結果である、研究内容の狭隘化や画一化に結びついていく可能性について検討を進めていく。 主たる研究事例となるのは、英国のResearch Excellence Framework (REF)と日本のスーパーグローバル大学創設支援事業である。 前者については、次回の研究評価の実施を2021年に控えて、2017年には評価事業の実施規則について大幅な見直しがおこなわれた。本研究の課題にとって特に重要なのは、従来よりも広い範囲の大学教員が評価対象として設定され、また、業績点数についてもこれまでの「1人あたり4本」から「1人あたり1本から5本」と幅が広げられた。本年度は、この制度変更が若手研究者の研究上のスタンスに与えた影響について現地での聞き取りを通して明らかにしていくことを目指す。
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Research Products
(8 results)