2015 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
15H03685
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
出口 和彦 名古屋大学, 理学(系)研究科(研究院), 講師 (40397584)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 強相関電子系 / 低温物性 / 金属物性 / 磁性 / 超伝導 |
Outline of Annual Research Achievements |
希土類元素の両端に位置するCeやYb、アクチナイド元素のUなどを含む結晶では、重い電子の形成、エキゾチックな磁気秩序や異方的超伝導など多様な秩序状態、価数揺動に伴う興味ある現象・強相関電子物性が観測されている。特に近年、Ybを含む強相関物質の結晶で非従来型の量子臨界現象とそれに関連した磁性・超伝導について精力的に研究が進められてきた。圧力・磁場・元素置換などをパラメタ―とした物性制御が精力的に行われる中、我々はこれまで大前提として考えられていた周期性に着目し、強相関電子系における並進対称性の役割の研究を進めた。 (1)Au-Al-Yb準結晶と近似結晶について、磁化、交流磁化率、比熱を極低温まで測定し、臨界指数・スケーリングから準結晶の量子臨界現象の性質を明らかにした。また、Au-Al-Yb準結晶・近似結晶について静水圧下の磁化率測定を極低温まで行うことにより、Au-Al-Yb準結晶が静水圧に対し「硬い」量子臨界物質であることと対照的に、Au-Al-Yb近似結晶は圧力に「敏感な」重い電子系の近似結晶であること発見した。準結晶の量子臨界現象は準周期性・回転対称性を変えないような静水圧に対して「硬さ」を示すことが明らかとなった。論文投稿中である。 (2)Tsai-typeクラスター構造をもつAu-Ge-Yb近似結晶を作成することにより興味深い超伝導を発見した。この結果はJ.Phys.Soc.Jpn.に掲載され"Paper of Editors' Choice"(注目論文)に選ばれた。 (3)Yb以外の元素置換によりYbの磁性を制御することが可能になった。磁気長距離秩序の有無について調べ、Yb とPdを含む近似結晶で20面体のYbを頂点とする正三角形に起因する幾何学的フラストレーションをもつ金属磁性体の興味深い磁気状態を示唆する結果が得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
磁性に着目して、電気抵抗・磁化率・比熱の温度依存性を極低温まで測定し、Ybを含むTsai-typeのクラスター構造をもつ新しい強相関電子系の近似結晶を他のTsai-typeのクラスター構造をもつ準結晶・近似結晶比較すると、局在電子系のAu-Al-Tm系準結晶・近似結晶では通常の磁性体でみられる振る舞いが観測されたのに対し、Ybを含む準結晶・近似結晶では非従来型の磁性が観測され、f電子が局在・遍歴の中間状態にある中間価数のYbの価数ゆらぎが原因であることを示唆する結果が得られた。Au-Al-Yb系準結晶で観測された準結晶の量子臨界現象を理解するための重要な手がかりとなり、準結晶の特殊な原子配置の規則と関係した「局在」でも「遍歴」でもない準周期系特有の電子状態「Critical State」と関係した強相関準結晶の電子状態の解明につながると考えている。また、Yb以外の元素置換によりYbの磁性を制御することが可能になった。磁気長距離秩序の有無について調べ、Yb とPdを含む近似結晶で20面体のYbを頂点とする正三角形に起因する幾何学的フラストレーションをもつ金属磁性体の興味深い磁気状態を示唆する結果が得られた。 以上のことから研究計画の進捗状況は良好であると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)Au-Ge-Yb近似結晶における強相関電子系の磁性と超伝導の研究。Au-Ge-Yb近似結晶はクラスター構造の違いにより2タイプの超伝導体がある。(i)4面体タイプ:非磁性の超伝導体、(ii)希土類ラットリングタイプ:磁性と共存する超伝導体。特に(ii)の磁性はAu-Al-Yb近似結晶(重い電子系)と類似しており、量子臨界現象との関係が興味深い。2種類の近似結晶について対照実験を行うことにより希土類20面体とラットリング希土類原子の寄与を分離して、f電子をプローブとして強相関近似結晶の電子状態を調べる。そのため、極低温・磁場下の熱力学量(比熱・交流磁化率)の測定を行い磁性・超伝導状態を調べる。 (2)フラストレーション金属磁性体準結晶・近似結晶の電子状態の研究。20面体の希土類を頂点とする正三角形に起因する幾何学的フラストレーションをもつ金属磁性体の準結晶・近似結晶の磁気的な秩序・基底状態と並進対称性の関係を調べる。また金属磁性体であるため、異常Hall効果など利用してf電子の電子状態を調べる。極低温・磁場下の熱力学量(磁化・比熱・交流磁化率)の測定を行い磁気的な秩序・基底状態を調べる。フラストレーションによるスピン液体など特異な電子状態が発現する可能性を対照実験により調べる。(ii) 極低温の異常Hall効果の測定を行い、幾何学的フラストレーションをもつ金属磁性体の電子状態を調べる。 (3)Tsai-typeクラスター構造をもつ強相関電子系の準結晶・近似結晶の開発。Tsai-typeクラスター構造をもつ準結晶・近似結晶についての物質開発を引き続き行う。3元系の準結晶・近似結晶の物質開発を引き続き行い、強相関電子系の準結晶・近似結晶の探索を行う。極低温・高圧・強磁場下の物性測定を行いTsai-typeクラスター構造をもつ準結晶・近似結晶で強相関電子系を探索する。
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Research Products
(10 results)