2016 Fiscal Year Annual Research Report
雲母から読む原始海洋のアンモニア:濃度と窒素同位体比の復元
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15H03741
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Research Institution | Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology |
Principal Investigator |
西澤 学 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 深海・地殻内生物圏研究分野, 研究員 (60447539)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
渋谷 岳造 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 深海・地殻内生物圏研究分野, 研究員 (00512906)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 太古代 / 海洋 / アンモニア / 白雲母 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は太古代の熱水変質作用でできた白雲母から初期海洋のアンモニア濃度と窒素同位体比を直接復元し、生命誕生期の海洋窒素循環を推定することを目的としている。このため今年度は次の3課題を実施した。課題1:白雲母に固定されたアンモニアの定量法と同位体比分析法の確立。課題2:年代測定による白雲母試料の選定。課題3:白雲母のアンモニア取り込み過程の実験的研究。課題1では、H27年度に構築した窒素の抽出・精製ラインを用いて、白雲母の単一試料の繰り返し実験を行い、アンモニアの分析法の妥当性を確認した。その結果、太古代の白雲母からアンモニアの濃度と窒素同位体比を精度よく測定する見通しがついた。課題2では、32億年前の地層に産する白雲母9試料について、カリウムーアルゴン年代測定を行い、白雲母の産状と放射年代の関係を明らかにした。その結果、熱水変質でできた白雲母を効率的に選び出す基準ができ、初期海洋のアンモニア濃度を詳細に復元するための見通しがついた。課題3では、アンモニアを分析するための熱水実験法を開発し、論文を国際誌に投稿した(平成29年4月21日に受理)。また200度・300気圧の温度圧力条件で水熱合成実験を125日間行った。実験の結果、熱水変質による岩石へのアンモニアの固定が確認され、本研究の作業仮説の一つが実証された。一方で、白雲母の生成量はXRD法の検出限界を下回った。このため、アンモニアの分配係数と同位体分別係数はまだ決定できていない。この問題が解決すれば、白雲母のアンモニアの濃度と窒素同位体比から初期海洋のアンモニアの濃度と窒素同位体比が復元できる。そこで、今後はEPMA法等を用いた白雲母の定量や合成実験の条件検討を行い、分配係数と同位体分別係数の決定を試みる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
H28年度の当初の研究実施計画は次の3課題の遂行であった。課題1:白雲母に固定されたアンモニアの定量法と同位体比分析法の確立。課題2:年代測定による白雲母試料の選定。課題3:水熱合成実験による白雲母と熱水間のアンモニアの分配係数と窒素同位体分別値の決定。課題1では、H27年度に構築した窒素の分離・精製ラインを用いて、単一試料の繰り返し実験を行い、アンモニアの分析法の妥当性を確認した。その結果、太古代の白雲母からアンモニアの濃度と窒素同位体比を精度よく測定する見通しがついた。課題2では、32億年前の地層に産する白雲母9試料について、カリウムーアルゴン年代測定を行い、白雲母の産状と放射年代の関係を明らかにした。これによって、太古代の熱水変質でできた白雲母を効率的に選び出す基準ができた。課題3では、アンモニアを分析するための熱水実験法を開発し、論文を国際誌に投稿した(平成29年4月21日に受理)。また当初計画を変更し、実験が容易な200度・300気圧の条件で125日間にわたり水熱合成実験を行った。実験前後の水溶液の化学組成ならびに固体生成物の鉱物組成をイオンクロマト法ならびにXRD法で測定した。水溶液に溶存するアンモニアの濃度は最終的には実験前の1/4の濃度まで下がった。これは熱水変質による岩石へのアンモニアの固定を意味し、本研究の作業仮説の一つが実証された。一方で、白雲母の生成量はXRD法の検出限界(5%)を下回った。このため、当初の予定にあったアンモニアの分配係数と同位体分別係数はまだ決定できていない。以上をまとめると、課題1と課題2はおおむね計画通り進んだが、課題3の遂行はやや遅れている。このため、総合的な進捗状況はおおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
H28年度の進捗状況を踏まえて、H29年度は課題1~3をそれぞれ以下のように推進する。課題2について、H28年度に得られた基準をもとに、年代測定をさらに行い、初生的な白雲母の試料を32億年前と35億年前の地層からなるべく多く選定する。選定した試料について、アンモニアの濃度と窒素同位体比を課題1の方法で測定し、初期海洋のアンモニアの情報を得る。課題3の分配係数と同位体分別係数については、岩石熱水反応を促進するために、高温条件(300度)で水熱合成実験を行う。また出発物質の種類や量を修正し、白雲母の生成を促進させる。以上、課題1、2、3の遂行によって得られた知見をもとに、初期海洋のアンモニアの濃度と窒素同位体比を復元する。
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Research Products
(2 results)