2016 Fiscal Year Annual Research Report
電子波動関数の核配置依存性に基づくアプローチによる振電相互作用効果の研究
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15H03761
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
渡邉 昇 東北大学, 多元物質科学研究所, 准教授 (90312660)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 原子・分子物理 / 電子分光 |
Outline of Annual Research Achievements |
分子振動と電子運動の相関である振電相互作用が、電子励起や化学反応過程でしばしば重要な役割を果たすことが知られている。これら振電相互作用効果の本質は、原子核の変位に伴う電子波動関数の歪みにある。このことを踏まえ、本研究ではこれまで実験的にアプローチの困難であった”電子波動関数の変化”に焦点を定め、新たな振電相互作用研究を展開してきた。 本年度は、分子の振動状態変化が分子物性に与える影響をその起源から明らかにしてゆくことを目的に、振動励起分子を対象とする電子運動量分光(EMS)実験の実現に向けた装置開発を行った。各振動状態にある分子の割合はボルツマン分布に従うため、試料ガスを加熱することで振動励起した分子を測定対象にできる。研究所付属機械工場の技術職員と連携して加熱型ガスノズルを試作し、その性能を調べた。予備実験の結果に基づきノズルデザインを改良することで、メチル基のねじれ振動や一般的な変角振動などが励起可能な1000 K程度までの加熱を達成できるとの見通しを得ることができた。以上の結果を踏まえ、現在、EMS装置に組み込む高温分子ビーム源の製作を進めている。 上記装置開発と並行して、室温条件下におけるEMS実験による電子運動量分布の高精度測定を行い、電子波動関数形状に対する分子振動の影響を系統的に調べた。オキセタンやギ酸メチルなどの大振幅振動モードをもつ分子を対象に実験を行うとともに、分子振動の影響を考慮した独自の理論計算を実行し、両者の比較などから個々の振動モードが電子運動量分布に与える影響を明らかにすべく研究を進めてきた。特に調和振動子近似が成立しない大振幅振動についても適用可能な解析法を新たに考案し、実験結果の解析に取り組んでいる。さらに、昨年度から取り組んできたアダマンタンなどの大きな分子に対する研究を継続して行い、その成果を論文として発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
実験装置を設置している建屋の耐震補強工事が研究開始当初の平成26から27年度にかけて実施され、その期間、研究設備一式を一時移転先に移設する必要があったことから、一連の研究遂行に若干の遅れが生じたため。
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Strategy for Future Research Activity |
高温条件下において振動励起した分子を対象に、核変位増大に伴う電子波動関数の変化を可視化する手法を確立する。さらに、振動励起により増大した電子波動関数の歪みが電子励起確率や生成励起分子の緩和過程に与える影響を明らかにすることを目的に、高温分子線を用いた電子エネルギー損失分光(EELS)実験の実現を目指す。
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Research Products
(12 results)