2016 Fiscal Year Annual Research Report
遷移金属触媒を活用する酸化還元調和型炭素骨格構築法の開発
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15H03809
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
倉橋 拓也 京都大学, 工学研究科, 准教授 (50432365)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | ニッケル / 酸化還元調和型反応 / アリルアルコール / 遷移金属触媒反応 / 理論化学計算 / 不斉触媒反応 |
Outline of Annual Research Achievements |
炭素―炭素結合形成による分子の基本骨格の構築は、有機合成の基盤であり、その様にして構築した分子骨格の炭素―ヘテロ原子結合形成による官能基修飾によって、目的とする分子が得られる。したがって、炭素―炭素結合形成反応の開発は、有機合成において極めて重要な研究課題である。ところが、炭素―炭素結合の形成は有機合成における基本的な反応であるにも関わらず、未だ解決すべき課題が多い。つまり、ペリ環状反応など炭素―炭素不飽和化合物の結合異性化に基づく反応を除けば、多くの場合は炭素―炭素結合を直接的に形成することは困難であり、基質の反応部位を予め各々酸化または還元することにより官能基を導入して活性化する必要がある。したがって、基質に含まれる他の官能基の保護、炭素―炭素結合形成反応後の脱保護、そして酸化剤と還元剤の使用に伴う廃棄物が生じるので原子効率が悪い。さらに複数の反応による多段階工程が必要であるなど作業効率も良くない。これまでに、二つの基質を互いに酸化剤あるいは還元剤として利用することができれば、予め各々の基質を酸化または還元して活性化する必要がなく、反応系中にて二つの基質を一度に活性化して炭素―炭素形成に供することが理論的には可能であることを示した。具体的には、ニッケル触媒を用いることによりアルコールとアルキンの直接的な反応によりアリルアルコールが得られることを示し、不斉触媒反応への応用展開を検討した。さらに、密度汎関数法による触媒機構解析を行い、反応における律速段階を明らかにした。その結果を基にして不斉カルベン配位子の設計・合成を実施した。当該年度の研究において、ニッケル触媒を用いることにより、ヨードベンゼンとアルキンの直接的な付加反応によりヨウ化アルケニルが得られることを新たに見いだした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
アルコールとアルキンが低原子価ニッケルとカルベン配位子を触媒として用いることで、穏和な反応条件(室温)で炭素-炭素結合が新たに形成する反応が進行して、アリルアルコールが得られることを確認しており、本課題研究の基盤となる結果を得ている。また、不斉カルベン配位子の設計・合成により、不斉触媒反応の検討を実施している。さらに、密度汎関数法による反応機構解析を実施したことで、触媒反応における律速段階などを明らかにした。すなわち、不斉配位子設計における重要な設計指針を得ることに成功している。SPring-8 BL14B2におけるXAFS測定(X線吸収微細構造解析)により、鍵反応中間体である5員環ニッケラサイクルの溶液構造を明らかにすることに成功した 本課題研究の遂行過程において、計画当初に予想していなかった新規反応の開発に成功した。具体的には、従来型触媒反応では達成されていないカルボヨウ素化反応がニッケルを触媒とすることにより可能であることを見いだした。SPring-8 BL14B2におけるXAFS測定によりニッケル一価錯体の形成が本反応の鍵であることを明らかにした。
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Strategy for Future Research Activity |
密度汎関数法による反応機構解析を基にして、不斉触媒反応に用いる配位子の設計・合成を検討する。これまでに合成した不斉カルベン配位子を用いた不斉触媒反応の検討を実施するとともに、その結果の詳細を密度汎関数法により得られた構造・エネルギー情報と比較することで、不斉配位子設計の指針とする。また、計画当初に予想していなかった新規反応として、ニッケル触媒を用いるカルボヨウ素化反応を新たに見いだしたが、本反応に関しても密度汎関数法による反応機構解析を実施するとともに、SPring-8 BL14B2におけるXAFS測定を活用することで、活性中間体の詳細な解析を行う。
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