2016 Fiscal Year Annual Research Report
環ひずみ解消を駆動力とするフォトクロミズムの高速化
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15H03858
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Research Institution | Nara Institute of Science and Technology |
Principal Investigator |
中嶋 琢也 奈良先端科学技術大学院大学, 物質創成科学研究科, 准教授 (70379543)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 光化学 / フォトクロミック反応 / 大環状分子 / 立体配座制御 |
Outline of Annual Research Achievements |
高効率な6π電子環状反応を示す、フォトクロミックターアリーレンを基盤構造とし、高速で熱消色反応を示す光応答性分子の構築に取り組んだ。特に、光反応性の6π系の両末端炭素上の置換基の熱消色反応への効果について評価し、その相関を見出した。 まず、置換基をメチル基から嵩高い置換基であるフェニル基に置換することで、消色反応が加速され、置換基の嵩高さの影響を確認した。更に、同一の嵩高さを有するエチルフェニル基とエチニルフェニル基の比較から、エチニル(三重結合)基において、効果的な加速が確認された。メチル基置換体と比較して1000倍以上の熱消色反応の加速を観察した。量子化学計算による理論的な考察から、この三重結合の効果は、遷移状態における三重結合の伸縮振動による化学結合点への摂動として帰属した。 更に、ターアリーレンを伸長したテトラアリーレンを作成し、テトラアリーレンの両端を連結した大環状分子を合成した。この大環状分子は環構造内に光反応性の6π電子系を有する。6π電子系は光反応によりシス-シソイドコンホメーションのヘキサトリエンから、化学的に架橋された1,2-シクロヘキサジエンへと構造変換する。このため、6π電子系を含有した大環状分子は、光反応によりさらに環構造を与え、最終的には2環性の化合物を与えた。2環性化合物は2つの環構造間で構造ストレスを与えるため、量環にひずみを与える。そのひずみを駆動力として熱消色反応を示す事が期待される。実際、合成した化合物は非環状の類似分子に比較して、20倍の熱消色反応の加速が認められた。今後、大環状分子の環縮小により更なる加速を実現する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2年間で高い光反応性を保ちつつも、熱戻り反応を加速するための分子設計の構築を目的にしていた。置換基効果について、消色反応を加速する三重結合の効果を見出すことに成功した。また、計画通りに大環状分子の設計も完了し、予測どおり、熱消色反応が加速するこに成功している。現在、通常のフォトクロミック分子の熱消色反応から1000倍の加速に成功しているが、半減期にして3時間程度である。今後、光6π電子環状系における熱消色反応の学理を確立するとともに、分オーダーの加速に挑戦する。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は特に、テトラアリーレンをベースとした大環状分子の設計を進める。大環状分子からの着色体における2環性の環ひずみは、環状分子の環の大きさが小さいほど大きくなる。すなわち、環状分子の環が小さいほど熱消色反応の加速が期待される。現在、テトラアリーレンの量末端は原子数6つ(-O-C-C=C-C-O-)で連結しており、今後、4つの原子で連結できる合成ルートを調査する。更に、連結部にダイナミック共有結合化学の概念を導入し、通常の双安定性のフォトクロミズムと熱消色反応性のフォトクロミズムをスイッチングできるシステムの構築を行う。 また、環状分子は右ねじれと左ねじれの環を有するキラル分子のラセミ混合物として合成される。これを光学分割できれば、一方向ねじれを有するキラル環状分子が得られる。6π電子環状反応は立体選択的に進行する事が知られており、絶対不斉光反応を示す分子システムが構築可能である。現在、溶媒への溶解性の観点からキラルHPLCによる光学分割が実現できていないが、置換基を適切に設計して光学分割を実施する。以上により、実時間で不斉構造を制御する分子システムの構築が期待される。
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